米国の金型・精密加工業協会(NTMA)が発表した最新の調査結果は、多くの企業が不確実な経済状況の中でも事業の強靭性を示し、設備投資を継続している実態を明らかにしました。一方で、熟練人材の不足は依然として最大の経営課題であり、これは日本の製造業にとっても他人事ではない重要な示唆を含んでいます。
NTMAによる調査の概要
米国の金型・精密加工業協会(National Tooling and Machining Association: NTMA)は、加盟企業を対象とした景況調査の結果を公表しました。この調査は、米国のものづくり、特に中小の精密加工業が直面する現状と今後の見通しを把握することを目的としています。調査結果からは、サプライチェーンの混乱や景気の不確実性といった逆風に晒されながらも、多くの企業が事業の継続と成長に向けて着実な手を打っている様子がうかがえます。
不確実性の中でも続く未来への投資
今回の調査で特に注目されるのは、多くの企業が将来の競争力確保のために設備投資を継続している点です。景気の先行きが不透明な中にあっても、自動化や省人化に繋がる工作機械、ロボット、そして生産管理を高度化するソフトウェアへの投資意欲は衰えていません。これは、目先のコスト削減だけでなく、長期的な生産性向上と人手不足への対応を見据えた戦略的な判断と言えるでしょう。日本の製造現場においても、同様に人手不足が深刻化する中で、どの工程に、どのような目的で投資を行うべきか、常に問われています。米国の同業他社の動向は、自社の投資戦略を考える上で一つの参考になるはずです。
最大の経営課題は、依然として「人材」
調査対象企業の多くが、最も深刻な経営課題として「熟練労働者の確保」を挙げています。これは、長年にわたり日米の製造業が共通して抱える根深い問題です。新しい従業員の採用が難しいだけでなく、経験豊富な技術者の高齢化と退職による技能伝承の断絶も大きな懸念事項となっています。単に人を採用するだけでなく、いかに若手や中堅の従業員を育成し、定着させていくかという、包括的な人事戦略の重要性が改めて浮き彫りになりました。我が国の工場においても、技能伝承の仕組みづくりや、多能工化の推進、働きがいのある職場環境の整備といった取り組みが、これまで以上に重要度を増していることは論を俟ちません。
サプライチェーンの安定化と国内回帰への関心
数年前に世界を混乱させたサプライチェーンの問題は、以前よりは落ち着きを見せているものの、依然として多くの企業の懸念材料となっています。地政学的なリスクや予期せぬ供給網の寸断に備えるため、部品や材料の調達先を国内に切り替える、いわゆる「リショアリング」への関心が高まっていることも報告されています。これは、コストだけでなく、供給の安定性やリードタイムの短縮といった観点からサプライチェーン全体を最適化しようとする動きの表れです。自社の調達網に潜むリスクを再評価し、より強靭なサプライチェーンを構築することは、事業継続計画(BCP)の観点からも極めて重要です。
日本の製造業への示唆
今回のNTMAの調査結果は、米国の精密製造業が直面する課題とそれに対する取り組みを示していますが、その多くは日本の製造業が置かれた状況と共通しています。この調査から、私たちは以下の点を再認識し、自社の経営や現場運営に活かすことができるでしょう。
1. 逆境下における戦略的投資の重要性:
景気の不透明感を理由に投資を躊躇するのではなく、人手不足の解消や生産性向上といった明確な目的を持った戦略的な設備投資(特に自動化・デジタル化)が、将来の競争力を左右します。他社の動向に惑わされることなく、自社の課題解決に直結する投資を見極める視点が求められます。
2. 人材問題への多角的なアプローチ:
人材不足は、単なる採用の問題ではありません。今いる従業員の技能向上(リスキリング)、熟練工からの技能伝承の仕組み化、そして働きがいを高めて定着率を向上させる取り組みなど、多角的なアプローチが不可欠です。人材を「コスト」ではなく、最も重要な「資産」として捉え直す必要があります。
3. サプライチェーンの継続的な見直し:
一度構築したサプライチェーンが最適であり続けるとは限りません。コスト、品質、納期(QCD)に加えて、供給の安定性や地政学リスクといった「強靭性(レジリエンス)」の観点から、定期的に自社の調達網を評価し、見直すことが重要です。国内調達の可能性も含め、複数の選択肢を検討しておくべきでしょう。
海の向こうの米国の話ではありますが、製造業が直面する課題に国境はありません。これらの動向を自社の状況と照らし合わせ、次の一手を考えるきっかけとしていただければ幸いです。


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