製造業の経営トップに求められる「現場力」とは何か

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海外の鉄鋼会社における新CEO就任のニュースは、製造業の経営幹部に求められる経験の多様性について、改めて考える機会を与えてくれます。特に、営業や財務だけでなく「生産管理」の経験を持つリーダーが、なぜ今、重要なのでしょうか。

はじめに:経営者に求められる経験の多様化

先日、インドの鉄鋼会社であるMukand Limited社が、新しいCEOの就任を発表しました。注目すべきは、その新CEOが営業、製品管理、P&L管理、マーケティングといった多岐にわたる分野で31年の経験を持ち、その中に「生産管理」が含まれている点です。これは特定の一社の話にとどまらず、現代の製造業における経営トップの理想像を考える上で、非常に示唆に富む事例と言えるでしょう。

「製販一体」を体現するリーダーシップの価値

製造業の経営においては、市場のニーズを捉える営業・マーケティング力と、それを形にする生産現場の力が両輪となります。しかし、組織が大きくなるにつれて、営業部門と製造部門の間で要求仕様や納期、コストを巡る対立が生じがちであることは、多くの現場が経験するところです。このような状況において、双方の論理を深く理解する経営者の存在は、極めて重要になります。

生産管理の経験を持つ経営者は、顧客からの要求(What)と、それをいかに効率的かつ高品質に作り上げるか(How)という二つの視点を持ち合わせています。これにより、営業部門が持ち帰った案件に対して、生産現場の能力や制約を踏まえた現実的な判断を下すことができます。これは、単なる部門間の調整役にとどまらず、事業全体の収益性を最大化するための「最適解」を導き出す能力に直結します。

P&Lと生産現場を結びつける視点

P&L(損益計算書)管理の経験と生産管理の経験を併せ持つリーダーは、企業の財務状況と現場の活動を直結させて考えることができます。例えば、ある設備投資を検討する際、単に生産性が何パーセント向上するか、というミクロな視点だけではありません。その投資がリードタイム短縮を通じてキャッシュフローにどう貢献するのか、あるいは品質向上によって顧客満足度やブランド価値にどう影響し、長期的な売上に繋がるのか、といったマクロな視点で判断を下すことが可能になります。

日本の製造業の現場では、日々、品質改善やコストダウン、納期遵守といった地道な努力が続けられています。経営トップがこれらの活動の本質的な価値を理解し、財務諸表上の数字の裏側にある現場の創意工夫を正しく評価できることは、現場の従業員の士気を高め、持続的な改善文化を醸成する上でも不可欠と言えるでしょう。

日本の製造業への示唆

今回の事例から、日本の製造業が学ぶべき点は以下の通り整理できます。

1. 経営幹部候補の育成計画の見直し
次世代のリーダーを育成するにあたり、財務や営業といった特定分野の専門家を育てるだけでなく、生産、開発、品質管理といったモノづくりの根幹に関わる部署を意図的に経験させるキャリアパスを設計することが重要です。部門を横断したジョブローテーションは、将来の経営者が全社最適の視点を持つための礎となります。

2. 現場起点の経営判断の徹底
DXやスマートファクトリー化といった大規模な変革を進める際、経営トップが生産現場の実態を理解しているか否かで、その投資効果は大きく変わります。技術導入ありきではなく、現場の真の課題を解決するための手段としてテクノロジーを捉える「現場起点の経営判断」が、これからの製造業には一層求められます。

3. 部門間の「翻訳者」としての役割
営業、開発、生産といった各部門は、それぞれ異なる言語や価値基準で動いています。生産管理を含む幅広い経験を持つリーダーは、これらの部門間の「翻訳者」となり、円滑なコミュニケーションを促進する役割を担うことができます。これにより、組織全体の連携が強化され、サプライチェーン全体の競争力向上に繋がります。

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