ソフトロボットの量産化を拓くか – 3Dプリンティングを活用した新型アクチュエータの製造技術

global

科学誌Natureに、ソフトロボットの核心部品であるアクチュエータを、3Dプリンティング技術を用いて高い信頼性で量産することを目指した研究が報告されました。本稿では、この技術の概要と、それが日本の製造業に与える可能性について、現場の実務的な視点から解説します。

はじめに:ソフトロボティクスと製造上の課題

近年、人間との協働や不定形物の把持などを目指し、シリコンゴムや樹脂といった柔らかい素材で構成される「ソフトロボティクス」の研究開発が世界的に活発化しています。従来の金属製の硬いロボットとは異なり、その柔軟性を生かして、これまで自動化が難しかった領域への応用が期待されています。しかし、その普及には製造上の課題がありました。特に、動きを生み出す中核部品である「ソフトアクチュエータ」は、複雑な内部構造を持つものが多く、その製造は手作業による鋳造などに頼ることが大半でした。そのため、個体ごとの品質のばらつきや、量産性の低さが実用化への大きな障壁となっていました。

論文の概要:全方向性ソフトスリーブアクチュエータと新たな製造法

今回、科学誌「Scientific Reports」で報告された研究は、この製造上の課題に対する一つの解決策を提示するものです。研究チームは、空気圧で駆動し、曲げ・伸縮・ねじりといった複雑な動きを全方向に行える、新しいスリーブ型(筒状)のソフトアクエチュエータを開発しました。このアクチュエータの特筆すべき点は、その製造プロセスにあります。

研究チームが採用したのは、材料にTPU(熱可塑性ポリウレタン)を用い、3Dプリンタで作成した鋳型(モールド)に材料を流し込む「間接押出3Dプリンティング」という手法です。TPUは、工業製品にも広く利用される、柔軟性と耐久性を兼ね備えた材料です。この手法により、複雑な内部流路を持つアクチュエータを、高い再現性を保ちながら製造する枠組みを構築したと報告されています。研究段階に留まらず、信頼性の高い大規模製造(reliable fabrication at scale)を明確に視野に入れている点が、本研究の重要なポイントと言えるでしょう。

日本の製造現場から見たこの技術の可能性

このアプローチは、日本の製造現場においても示唆に富むものです。3Dプリンタで製品そのものではなく「鋳型」を製作するという発想は、従来の製造技術との連携を容易にします。

第一に、金型製作に比べて圧倒的に短期間・低コストで鋳型を用意できるため、製品の設計変更や試作に迅速に対応できます。これは、顧客の多様なニーズに応える少量多品種生産や、マスカスタマイゼーションの実現に大きく貢献する可能性があります。

第二に、アクチュエータ自体の性能向上です。ソフトロボットは、食品工場での食材のハンドリングや、組立工程における人との協働作業など、これまで自動化が困難であったタスクへの応用が期待されています。量産性と信頼性が担保された高性能なアクチュエータが登場すれば、こうした分野での自動化・省人化設備開発が加速する可能性があります。

さらに、日本が得意とする材料技術との融合も考えられます。例えば、より耐熱性や耐薬品性に優れた樹脂材料を適用できれば、工場内の過酷な環境下で使用可能な、新しい産業用ソフトロボットの開発にも繋がるでしょう。

日本の製造業への示唆

本研究は、ソフトロボティクスの実用化を大きく前進させる可能性を秘めており、日本の製造業にとっても以下の点で重要な示唆を与えてくれます。

1. アディティブ・マニュファクチャリング(AM)の応用の広がり
3Dプリンティングを最終製品の直接製造(ダイレクト・マニュファクチャリング)だけでなく、治具や鋳型といった「生産手段」の製作に活用することで、既存の製造プロセスと組み合わせたハイブリッドな生産体制を構築できます。これにより、開発リードタイムの短縮とコスト削減を両立できる可能性があります。

2. 次世代自動化設備への布石
再現性の高いソフトアクチュエータの製造技術は、ソフトロボットの産業応用を加速させる重要な一歩です。人手不足が深刻化する中、これまで自動化が難しかった不定形物の扱いや、人との協働作業が求められる工程への導入検討を開始する価値は高いでしょう。

3. 設計と生産技術の連携強化
3Dプリンティングのような新しい製造技術のポテンシャルを最大限に引き出すには、従来の加工方法を前提とした設計思想からの転換が求められます(DfAM: Design for Additive Manufacturing)。複雑な形状を一体で造形できるといったAMの利点を活かすため、設計部門と生産技術部門がこれまで以上に密に連携し、製品開発を進めていくことが不可欠です。

コメント

タイトルとURLをコピーしました