インドのマーケティングエージェンシーの成長に関する記事から、一見無関係に見える異業種の動向を読み解きます。そこからは、現代の日本の製造業、特にB2Bビジネスにおける顧客への価値提供のあり方を考える上で、重要なヒントが見えてきます。
異業種に見る「生産管理」と「テクノロジー活用」
先日、インドを拠点とするマーケティングエージェンシー「NeoNiche」社が設立15周年を迎え、着実な成長を遂げているという記事が報じられました。同社はイベント運営や体験型マーケティングを専門とし、その成功の要因として「生産管理(production management)」と「テクノロジー主導の体験型フォーマット」を挙げています。
ここで言う「生産管理」とは、我々製造業が日々取り組んでいる工場の生産ラインの管理とは少し意味合いが異なります。これは、イベントやマーケティングキャンペーンという「成果物」を、計画通りに高い品質で実現するための「制作進行管理」と捉えるのが適切でしょう。しかし、目的達成のために人・モノ・時間といったリソースを最適に配分し、プロセス全体を管理するという本質は、我々の工場のものづくりと通じるものがあります。
また、同社が強みとする「テクノロジー主導の体験型フォーマット」という点も注目に値します。これは、デジタル技術などを活用して、顧客に製品やサービスの価値をより深く、直感的に理解してもらうための手法です。この考え方は、日本の製造業、特に法人向け(B2B)のビジネスを展開する企業にとって、示唆に富むものです。
スペックの訴求から「体験価値」の提供へ
長年、日本の製造業の営業やマーケティング活動は、製品カタログや仕様書を中心に、その高い性能や品質、つまり「スペック」を訴求することが中心でした。もちろん、製品の優れた性能は競争力の源泉であり、その重要性は今も変わりません。
しかし、顧客が本当に求めているのは、単なるスペックの羅列ではありません。その製品を導入することで、自社のどのような課題が解決され、どのようなメリット(生産性向上、コスト削減、品質向上など)がもたらされるのか。いわば、製品がもたらす価値の「体験」です。この「体験価値」をいかに顧客に伝えられるかが、競合他社との差別化を図る上でますます重要になっています。
例えば、大規模な製造装置を販売する際、かつては展示会での実機デモンストレーションが主な体験の場でした。しかし昨今では、VR(仮想現実)技術を用いて工場の設置シミュレーションを提供したり、遠隔地の顧客に対してオンラインで詳細な製品デモを実施したりと、テクノロジーを活用して時間や場所の制約を超えて「体験価値」を提供する取り組みが広がっています。
「コトづくり」を支える製造業の知見
このような顧客への「体験価値」の提供、すなわち「コトづくり」は、決して行き当たりばったりで成功するものではありません。そこには、明確な計画と管理が不可欠です。
どのような体験を、どの顧客に、どのような方法で提供するのか。そのために必要なコンテンツやツールを、いかにして品質・コスト・納期の観点から最適に準備し、実行していくか。この一連のプロセスは、まさに製造業が長年培ってきた生産管理やプロジェクト管理のノウハウそのものです。
マーケティング部門が描いた顧客体験のシナリオを、技術部門が持つ製品知識や技術力で具現化し、製造現場で培われた管理手法でプロジェクト全体を推進する。このような部門横断的な連携こそが、質の高い「体験価値」を生み出す鍵となります。自社が持つものづくりの知見は、こうした新しい価値創造の場面でも強力な武器となるのです。
日本の製造業への示唆
今回の異業種の事例から、日本の製造業が実務に活かせる点を以下に整理します。
1. B2Bマーケティングにおける「体験価値」の再認識
製品の機能やスペックを伝えるだけでなく、顧客がその価値を「体験」できる仕組みづくりが重要です。自社の製品や技術の特性を踏まえ、VR/AR、シミュレーション、オンラインデモなど、どのような体験を提供できるかを検討する価値は大きいでしょう。
2. 「生産管理」の考え方をサービス領域へ展開
工場で培ったQCD管理やプロジェクトマネジメントの手法は、製品そのものだけでなく、顧客にソリューションやサービスを提供する「コトづくり」のプロセスにも応用できます。これまで培ってきた管理技術という無形資産を、新たな価値創造に活かす視点が求められます。
3. 部門の垣根を越えた連携体制の構築
優れた顧客体験は、営業・マーケティング部門だけでは作れません。製品を最も深く理解している技術・開発・製造部門との密な連携が不可欠です。顧客の課題を共有し、全社で「いかに価値を伝えるか」を考える文化を醸成することが、企業の競争力を高めることに繋がります。


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