世界の植物保護製品(農薬等)市場が、2025年以降、年平均4.6%で着実に成長するとの予測が発表されました。この背景には、世界の食料需要の増加と、環境負荷低減という二つの大きな潮流があり、日本の製造業にとっても重要な示唆を含んでいます。
安定成長が見込まれる植物保護製品市場
近年のレポートによると、世界の植物保護製品市場は2025年以降、年平均成長率(CAGR)4.6%での安定した拡大が見込まれています。世界的な人口増加に伴う食料需要の増大が、この市場の基盤を支えています。農業生産性を維持・向上させるためには、病害虫や雑草から作物を保護する製品が不可欠であり、その需要は今後も底堅く推移すると考えられます。
しかし、その一方で、環境保護や食の安全に対する社会的な要求は年々高まっています。従来の化学合成農薬に対する規制強化の動きは世界的な潮流となっており、単に収量を増やすだけでなく、環境への影響を最小限に抑えることが強く求められています。この「食料増産」と「環境負荷低減」という、一見すると相反する課題を両立させることが、市場成長の鍵となっています。
技術革新がもたらす市場の変化
このような市場環境の変化に対応するため、製品開発の現場では大きな技術革新が進んでいます。特に注目すべきは、「生物学的製剤」と「精密製剤」という二つの方向性です。
1. 生物学的製剤(バイオロジカルズ)へのシフト
微生物や天然物由来の成分を利用する生物学的製剤は、特定の病害虫にのみ作用し、人や環境への影響が少ないという特長があります。化学合成品とは製造プロセスが根本的に異なり、微生物の培養や発酵、有効成分の抽出・精製といった、医薬品や食品産業に近い生産技術が求められます。特に北米市場では、こうした高付加価値な生物学的製剤が市場を牽引しています。日本の製造業が長年培ってきた発酵技術や品質管理のノウハウは、この分野で大きな競争力となり得ます。
2. 精密製剤(Precision Formulation)技術の高度化
有効成分を必要な場所に必要な量だけ、最適なタイミングで届ける「精密製剤」の技術も進化しています。これは、医薬品開発におけるドラッグデリバリーシステム(DDS)の考え方を応用したもので、より少ない投下量で最大の効果を発揮させることを目的とします。成分をマイクロカプセル化して徐々に放出させたり、特定の条件下でのみ効果を発揮するように設計したりするなど、高度な配合・加工技術が不可欠です。こうした「作り込み」の技術は、まさに日本の製造業が得意とするところであり、差別化の源泉となるでしょう。
欧州の動向と日本の立ち位置
レポートでは、欧州が規制強化という大きな変化の渦中にあることにも触れられています。例えば、欧州連合(EU)の「Farm to Fork戦略」では、化学農薬の使用量削減が明確な目標として掲げられており、市場構造そのものが転換期を迎えています。規制を遵守し、かつ農業生産性を維持するための新しいソリューションが強く求められているのです。
こうした世界の動向は、日本の製造業にとっても決して他人事ではありません。国内市場はもちろん、グローバルに事業を展開する上で、環境規制への対応と高付加価値化を両立させる技術開発が、今後の持続的な成長に不可欠となります。
日本の製造業への示唆
今回の市場予測は、農薬関連メーカーに直接的な影響を与えるものですが、その背景にある変化は、より広い範囲の製造業にとって重要な視点を提供しています。
1. 規制強化を事業機会と捉える視点
環境規制は、単なるコスト要因ではなく、新しい技術や製品を生み出すための重要なトリガーです。規制に対応する高機能な製品は、新たな市場を創出し、高い収益性をもたらす可能性があります。自社の技術が、こうした社会課題の解決にどのように貢献できるかを多角的に検討することが重要です。
2. 異分野技術の融合による新たな価値創造
生物学的製剤に見られるように、医薬品や食品で培われた技術が、農業という異なる分野で新たな価値を生み出しています。自社が保有するコア技術を棚卸しし、異分野の課題解決に応用できないか検討することは、新規事業の有力なアプローチとなり得ます。特に、素材、化学、機械、エレクトロニクスといった分野の技術の組み合わせが、新たなイノベーションの鍵を握るでしょう。
3. 生産管理・品質管理の高度化
新しいタイプの製品は、新しい製造プロセスを必要とします。例えば、生物学的製剤の製造では、微生物の厳密なコンタミネーション管理や、有効成分の活性を失わせないための高度な品質保証体制が求められます。これは、生産技術部門にとって新たな挑戦であると同時に、他社が容易に模倣できない競争優位性を築く好機でもあります。


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