米国、法人代替ミニマム税(CAMT)の運用見直しへ – 製造業の設備投資促進に道筋

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2022年に米国で導入された「法人代替ミニマム税(CAMT)」が、製造業の設備投資意欲を削ぐ要因になると懸念されていました。このほど米財務省が、この税制の運用に関する規則案を公表し、設備投資に伴う税制優遇が維持される見通しとなり、米国内での投資環境の不確実性が一つ解消されることになります。

背景:法人代替ミニマム税(CAMT)とは

法人代替ミニマム税(Corporate Alternative Minimum Tax: CAMT)は、2022年のインフレ抑制法(IRA)の一環として導入された米国の新しい税制です。これは、会計上の利益が10億ドルを超える大企業を対象に、通常の法人税額が会計上の利益の15%に満たない場合、その差額を追加で課税するというものです。目的は、大企業が様々な税制上の優遇措置を適用した結果、納税額が極端に低くなることを防ぐことにあります。

この考え方自体は新しいものではなく、各国で議論されてきた法人課税の公平性を確保するための一つの手法と言えます。しかし、その計算基準が「税務上の課税所得」ではなく「会計上の利益」である点が、製造業にとって大きな課題を生んでいました。

製造業が直面していた課題:設備投資と税制のねじれ

製造業は、その事業特性上、工場建設や生産ラインの刷新といった大規模な設備投資が不可欠です。各国政府はこうした投資を奨励するため、「加速減価償却」のような税制優遇措置を設けています。これは、設備投資にかかった費用を通常より短い期間で経費として計上できる制度で、課税所得を圧縮し、初期のキャッシュフローを改善する効果があります。

しかし、CAMTの登場により、この仕組みがうまく機能しなくなる可能性が指摘されていました。加速減価償却を適用すると「税務上の課税所得」は大きく減少しますが、「会計上の利益」はそれほど減少しません。その結果、通常の法人税額は低く抑えられても、CAMTの基準となる会計上の利益は高いままであり、結果的に15%のミニマム税が課され、せっかくの税制優遇の効果が相殺されてしまうという懸念が生じていたのです。

この税務上の不確実性は、米国内で大規模な投資を計画する製造業者にとって、最終的な意思決定を躊躇させる大きな要因となっていました。我々日本の製造業においても、設備投資の採算性を評価する上で、減価償却の扱いはキャッシュフロー計画に直結する極めて重要な要素であり、この状況は対岸の火事ではありませんでした。

米財務省による規則案の提示とその影響

こうした製造業界からの強い懸念を受け、全米製造業者協会(NAM)などが政府への働きかけを続けてきました。そしてこの度、米財務省と内国歳入庁(IRS)は、この問題に対処するための規則案を公表しました。

この規則案の核心は、CAMTの計算を行う際に、加速減価償却をはじめとする税務上の控除を適切に反映させることを明確にした点にあります。これにより、企業は設備投資に伴う税制優遇の恩恵を安心して活用できる見通しが立ちました。

この措置は、米国内での投資計画における予見可能性を大きく高めるものです。企業は税務上のリスクを過度に恐れることなく、競争力強化に向けた工場新設や設備更新の判断を下しやすくなると考えられます。

日本の製造業への示唆

今回の米国の動きは、日本の製造業にとってもいくつかの重要な示唆を含んでいます。

1. 米国における投資環境の明確化
米国に生産拠点を有する、あるいはこれから進出を検討している日本企業にとって、今回の規則案は朗報です。特に、半導体関連のCHIPS法やEV関連のIRAによる補助金と連動した大規模な設備投資を計画する企業にとっては、税務上の大きな不確実性が取り除かれ、投資計画の策定がより容易になります。

2. サプライチェーン再編の潮流
本件は、米国政府が国内の製造業の競争力強化と投資促進に強い意志を持っていることの表れです。これは、米国内での生産回帰(リショアリング)やサプライチェーンの強靭化という大きな流れを後押しするものです。日本の製造業としても、北米市場を事業戦略上どのように位置づけ、サプライチェーンを再構築していくか、こうした米国の政策動向を継続的に注視し、自社の戦略に反映させていく必要があります。

3. 予見可能性の高い税制の重要性
今回の事例は、税制の細かな運用一つが、企業の長期的な投資マインドにいかに大きな影響を与えるかを示す好例と言えます。これは日本国内においても同様です。企業の国際競争力を維持・向上させるためには、単なる減税措置だけでなく、企業が安心して長期的な設備投資計画を立てられるような、明確で予見可能性の高い税制の設計と運用が不可欠であることを改めて示唆しています。

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