プロジェクト完了後の組織をどうするか? – 安定操業への移行期における人材マネジメントの要諦

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豪州のエネルギー企業の事例を機に、製造業における大規模プロジェクト完了後の組織・人材の課題を考察します。プロジェクトの成功を、その後の安定した事業成長に繋げるために、日本のものづくり企業が留意すべき視点を探ります。

大規模プロジェクト完了後に訪れる「移行期の壁」

先日、オーストラリアのエネルギー大手サントス社が、大規模な天然ガスプロジェクトの完了に伴い、約400人の人員を削減するという報道がありました。これは、プロジェクトが建設や立ち上げといったフェーズから、生産物を生み出し続ける「操業フェーズ」へと移行する際に、必要とされる人員の構成やスキルセットが大きく変化することを示唆しています。具体的には、生産管理、保全計画、物流といった、より定常的で効率的な運営を担う人材が中心となるため、組織のスリム化が行われるというものです。

この話は、遠い国のエネルギー産業の出来事と片付けることはできません。日本の製造業においても、新工場の建設、新生産ラインの導入、あるいは大規模なDXプロジェクトなど、特定の目的のために組成されたチームがその役割を終える時、同様の課題に直面します。プロジェクトという非定常業務から、日々の生産活動という定常業務へ。この移行をいかにスムーズに行い、組織の活力を維持・向上させていくかは、多くの経営者や工場長にとって重要な経営課題と言えるでしょう。

プロジェクトのフェーズで求められる人材は異なる

製造業におけるプロジェクトは、その進捗に応じて大きく性質を変えていきます。そして、それぞれのフェーズで求められる人材の能力や専門性も異なります。

計画・立ち上げフェーズ:この段階では、設計、設備導入、プロセス開発、トライアンドエラーといった「創造」に関わる業務が中心です。高い専門知識を持つ技術者、強力なリーダーシップでチームを牽引するプロジェクトマネージャー、そして予期せぬトラブルに迅速に対応できる問題解決能力の高い人材が求められます。いわば、何もない状態から形を作り上げるための、突破力のある少数精鋭のチームが活躍する場です。

安定操業フェーズ:一方、生産が軌道に乗り、安定した品質と生産量を維持する段階では、業務の性質は「維持・改善」へとシフトします。ここでは、定められた標準作業を確実に遵守する規律、日々の小さな変化に気づき改善に繋げる観察力、そしてチームとして円滑に業務を遂行するための協調性が重要となります。地道な改善活動を継続し、効率性と品質を少しずつ高めていく力が組織の競争力を支えます。

このように、求められるスキルセットが異なるため、プロジェクト完了後に、立ち上げメンバーをそのまま操業部門に配置転換するだけでは、能力のミスマッチや本人のモチベーション低下を招きかねないのです。

日本企業が直面する特有の課題と対応

海外企業のようにプロジェクト完了をもって契約終了、あるいは人員削減という選択肢を取りにくい日本の雇用環境においては、この「移行期の壁」はより深刻な課題となり得ます。多大な貢献をしたプロジェクトメンバーの経験を次にどう活かすのか、会社として明確な道筋を示す必要があります。

一つの方向性は、計画的な人事ローテーションとキャリアパスの提示です。優秀な人材には、一つのプロジェクトの完了を区切りとして、また別の新しい挑戦の場(次の新製品開発プロジェクト、海外工場の立ち上げ支援など)を提供することで、継続的な成長とモチベーションの維持を図ります。そのためには、全社的な視点での人材育成計画と、個人のキャリア志向を汲み取る仕組みが不可欠です。

もう一つ重要なのは、プロジェクトで得られた知見の組織的な継承です。立ち上げ時の苦労や失敗から得られた貴重なノウハウは、個人の経験談で終わらせるのではなく、設計標準や作業手順書、トラブルシューティング集といった「形式知」に落とし込み、組織全体の資産としなければなりません。これにより、プロジェクトメンバーは「知識を遺す」という重要な役割を果たすことができ、操業部門はより高いレベルからスタートを切ることが可能になります。

「作る」から「回す」へのスムーズなバトンタッチ

プロジェクトチームから操業チームへの引き継ぎは、単なる設備の引き渡しではありません。なぜその設計になったのかという設計思想、過去に発生したトラブルとその対策といった、目に見えない「暗黙知」をいかに継承するかが、その後の安定操業の鍵を握ります。

これを実現するためには、プロジェクトの後半から操業部門の担当者を計画的に参画させたり、逆にプロジェクトメンバーが量産開始後も一定期間、現場のサポートに入ったりといった、組織間の垣根を越えた協力体制が効果的です。作る側と回す側が互いの立場を理解し、尊重し合う文化を醸成することが、スムーズなバトンタッチを可能にし、ひいては工場全体の力を高めることに繋がるのです。

日本の製造業への示唆

今回の事例から、日本の製造業が学ぶべき実務的な示唆を以下に整理します。

  1. 出口を見据えたプロジェクト計画:プロジェクトを計画する初期段階から、完了後の操業体制と、プロジェクトメンバーのキャリアパス(出口戦略)をセットで検討することが不可欠です。行き場のない優秀な人材を生み出さないための、経営層の配慮が求められます。

  2. 人材の多能工化とキャリアの複線化:プロジェクト経験は、個人にとって大きな成長の機会です。その経験を活かせる次の舞台を用意できるよう、社内公募制度の活用や、専門職としてのキャリアパスを整備するなど、人材活用の選択肢を多様化させることが重要です。

  3. 組織知の形式知化と共有:プロジェクトのプロセスと成果を、誰もが参照できる形で記録・保管する仕組みを構築すべきです。成功体験だけでなく、失敗から得た教訓こそが、組織にとって最も価値のある情報資産となります。

  4. 柔軟なリソース配分:プロジェクトのフェーズに応じて、自社の正社員と外部の専門家(コンサルタント、エンジニアリング会社など)を戦略的に組み合わせることも有効な手段です。全ての機能を自社で抱えるのではなく、必要な時に必要なスキルを外部から調達するという柔軟な発想が、組織の効率性と対応力を高めます。

プロジェクトの成功は、単に目標の達成だけでなく、その後の事業が安定的に成長し、関わった人材がさらに活躍してこそ、真の成功と言えるでしょう。そのために、移行期における組織と人材のマネジメントに、より一層の注意を払う必要があります。

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