フランスの航空宇宙大手サフラン・グループが、モロッコ拠点で生産管理担当者の求人を行っています。その職務内容からは、グローバルサプライチェーンにおける新興国拠点の役割と、そこで求められる厳格な生産管理の実態が見えてきます。
グローバルサプライチェーンにおける基本の徹底
最近公開されたサフラン・グループのモロッコ拠点における求人情報には、生産管理に関わる担当者の基本的な職務が記されていました。具体的には、「生産管理スケジュールに従って納期を遵守すること」、そして「部品納入に必要なサービスオーダー(作業指示書)をすべて処理すること」が挙げられています。これらは一見すると、どの工場でも行われている基本的な業務です。しかし、これが欧州の大手航空宇宙メーカーの、アフリカ拠点における求人情報であるという点が、我々日本の製造業関係者にとって示唆に富んでいます。
特に航空宇宙産業のように、極めて高い品質と信頼性が求められる分野では、サプライチェーンの末端に至るまで、定められたプロセスとスケジュールが厳格に守られることが事業の根幹を成します。たとえそれが欧州から地理的に離れたモロッコの工場であっても、本社と全く同じ基準でのオペレーションが求められるのです。グローバルに事業を展開する上で、こうした基本業務の標準化と徹底がいかに重要であるかを、この事例は改めて示していると言えるでしょう。
ニアショアリング拠点としてのモロッコ
サフランのような欧州企業が、なぜモロッコに生産拠点を置くのでしょうか。その背景には、近年のサプライチェーン戦略の変化があります。モロッコは欧州に地理的に近く、輸送リードタイムや物流コストの面で大きな優位性を持っています。また、比較的安定した政情や、欧州との文化的な近さも魅力とされています。
これは、遠隔地での生産(オフショアリング)から、消費地に近い近隣国での生産(ニアショアリング)へとシフトする世界的な潮流の一例です。パンデミックや地政学的な緊張の高まりを受け、多くのグローバル企業がサプライチェーンの強靭化とリスク分散を急いでいます。日本の製造業においても、中国や東南アジア一辺倒ではなく、消費市場や最終組立地に合わせた生産拠点の多様化を検討する上で、こうした欧州企業の動きは参考になるはずです。
現地人材に求められる役割
今回の求人情報で興味深いのは、その職務内容が単なる作業者ではなく、生産計画全体を理解し、納期という結果に責任を持つ役割を求めている点です。生産スケジュールを正確に理解し、関連部署と連携しながら部品納入のプロセスを滞りなく進める能力は、工場の生産性を左右する重要な機能です。海外拠点において、現地の従業員を単なる低コストの労働力として捉えるのではなく、こうした生産管理の中核を担う人材として育成し、権限を委譲していくことが、グローバルでの競争力を維持・向上させる鍵となります。標準化されたプロセスを確実に実行できる人材の確保と育成は、海外工場運営における永遠の課題と言えるかもしれません。
日本の製造業への示唆
今回のサフラン社の事例から、日本の製造業が学ぶべき点を以下に整理します。
1. サプライチェーン戦略の再評価:
地政学リスクや物流の不安定化を前提とし、生産拠点の地理的な最適配置を再検討することが求められます。消費地に近い場所での生産(ニアショアリング)は、リードタイム短縮や在庫削減だけでなく、サプライチェーンの強靭化にも繋がる有効な選択肢です。
2. 海外拠点における管理レベルの標準化と徹底:
どの国や地域で生産するかにかかわらず、本社と同等の品質・納期管理レベルを維持するための仕組みが不可欠です。特に、納期遵守や標準作業手順の実行といった基本動作を、いかに海外拠点の末端まで浸透させ、定着させるかが、グローバルな信頼性を担保する上で極めて重要になります。
3. 現地人材の育成と役割の明確化:
海外拠点の成功は、現地で働く人々の能力に大きく依存します。コスト削減のみを目的とするのではなく、生産計画の意図を理解し、責任感を持って業務を遂行できる中核人材を育成する視点が欠かせません。標準化された業務プロセスを運用し、改善していく主体として現地スタッフを位置づけることが、持続的な拠点運営に繋がります。


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