タングステン供給網に新たな選択肢か、韓国の鉱山再開発が日本の製造業にもたらす意味

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超硬工具などに不可欠なレアメタルであるタングステンは、その供給を中国に大きく依存しており、多くの製造業にとってサプライチェーン上の懸念材料となっています。この状況下、韓国の旧鉱山が西側諸国の代替供給源として再開発される動きは、地政学リスクの低減と調達先の多様化という点で注目に値します。

タングステン供給網の現状と構造的課題

タングステンは、その高い融点と硬度から、超硬工具の材料として切削加工や金型の分野で広く利用されています。また、電子部品の電極やフィラメント、さらには防衛産業においても重要な戦略物資として扱われるなど、現代の製造業を支える上で欠かせないレアメタルの一つです。しかし、その供給構造には大きな偏りが見られます。現在、世界のタングステン生産量の8割以上を中国が占めており、価格形成や供給の安定性は、同国の政策や生産状況に大きく左右されるのが実情です。これは、調達を担当する部門にとっては、地政学リスクや輸出規制の可能性といった、常に考慮すべき事業継続上の課題となっています。

韓国・サンジョン鉱山再開発の動き

こうした中、カナダの鉱山開発会社であるピュア・タングステン社が、韓国にあるサンジョン(Ssangjon)鉱山の再開発を進めているというニュースが報じられました。この鉱山は、かつては世界の主要なタングステン供給源の一つでしたが、その後閉山していました。今回の再開発は、この鉱山を中国以外の、いわゆる「西側諸国」向けの安定的な供給源として位置づけることを目的としています。開発段階から生産段階への移行が進められており、この動きが本格化すれば、長年続いてきた中国への一極集中構造に変化をもたらす可能性があります。

地理的優位性と安定供給への期待

日本の製造業の視点から見ると、韓国に新たな供給拠点が生まれることの意義は大きいと言えます。まず、地理的に近いことで、輸送リードタイムの短縮や物流コストの削減が期待できます。これは、ジャストインタイム生産を基本とする多くの工場にとって、在庫管理の最適化や急な需要変動への対応力向上に繋がります。また、供給元が多様化されること自体が、特定国への過度な依存から脱却し、サプライチェーン全体の強靭性を高めることに貢献します。もちろん、生産規模や品質、そして何よりコストが既存の調達先と比較してどの程度の競争力を持つのかは、今後の動向を慎重に見極める必要がありますが、新たな選択肢が生まれることは歓迎すべき動きです。

日本の製造業への示唆

今回の韓国におけるタングステン鉱山の再開発は、日本の製造業にとって重要な示唆を含んでいます。以下に要点を整理します。

1. 調達先の多様化とリスク分散の再評価
特定の国や地域に依存するサプライチェーンの脆弱性を改めて認識し、調達ポートフォリオを見直す良い機会となります。タングステンに限らず、他のレアメタルや重要部材についても、代替供給元の探索や評価を平時から進めておくことが重要です。

2. BCP(事業継続計画)における具体策の検討
地政学リスクを前提としたBCPの更新が求められます。新たな供給元の情報を収集し、緊急時の調達先切り替え手順を具体的に計画に盛り込む、あるいは重要部材の戦略的備蓄量を再検討するといった実務的な対応が必要です。

3. サプライチェーン情報の継続的な監視
グローバルな資源開発の動向は、自社の事業環境に直接的な影響を及ぼします。今回のようなニュースを単なる情報として受け取るだけでなく、自社の調達戦略や生産計画にどう活かすかを考える視点が、経営層から現場の技術者まで、それぞれの立場で求められます。

4. コストと安定供給のバランス
新たな供給元が確立された場合、単純な価格比較だけでなく、供給の安定性、品質、そして地政学的な安心感といった非価格要素を総合的に評価し、最適な調達戦略を構築していく必要があります。これは、短期的なコスト最適化と長期的な事業継続性のバランスを取るという、経営の根幹に関わる判断と言えるでしょう。

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