ファーストリテイリングの事例から学ぶ、グローバル生産人材の育成戦略

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ファーストリテイリング社が公開する生産管理職のキャリアパスは、グローバルサプライチェーンが複雑化する現代において、日本の製造業が人材育成を考える上で示唆に富んでいます。本稿では、同社の事例を読み解きながら、これからの製造業に求められる人材像と、その育成に向けたアプローチについて考察します。

意図的に設計されたグローバルキャリアパス

ファーストリテイリング社の採用情報で示されている生産管理職のキャリアパスは、非常に戦略的かつ実践的です。入社後わずか数年で、グローバルなビジネスの最前線で活躍する人材を育成しようという強い意志がうかがえます。

具体的には、以下のようなステップが示されています。

  • 1年目: 生産管理候補生として基礎を学ぶ
  • 2年目: バングラデシュの生産拠点で生産管理を実践
  • 3年目: グローバル生産マーチャンダイザーとして、より上流の業務へ

注目すべきは、入社2年目という早い段階で海外の主要な生産拠点に赴任し、現場の実務を経験させる点です。これは、単なるOJTとは一線を画す、意図的に設計された育成プログラムと言えるでしょう。

早期の海外現場経験がもたらす価値

多くの日本の製造業では、海外赴任は一定の経験を積んだ中堅・ベテラン社員が中心となることが多いのではないでしょうか。しかし、同社の事例は、若いうちに海外の生産現場を経験させることの重要性を示唆しています。

バングラデシュのような生産拠点では、机上の理論だけでは通用しない数々の課題に直面します。品質の維持・向上、納期の遵守、コスト管理はもちろんのこと、現地の文化や習慣を理解し、現地スタッフと信頼関係を築きながら課題を解決していく能力が求められます。このようなタフな環境での経験は、問題解決能力、交渉力、そして多様性を受け入れるグローバルな視点を、座学では得られないスピードと深さで養うことにつながります。

生産と企画を繋ぐ人材の育成

キャリアパスの3年目には「グローバル生産マーチャンダイザー」という役職が示されています。これは、生産現場の知見を持った人材が、商品企画や開発といったマーチャンダイジングの領域に関わることを意味します。生産現場で培ったQCD(品質・コスト・納期)の現実的な感覚を、新商品の企画段階からフィードバックできる人材は、企業にとって極めて貴重です。

生産部門と企画・開発部門が縦割りになりがちな製造業において、両者の橋渡しができる人材は、サプライチェーン全体の最適化や、市場ニーズに即した製品開発を加速させる上で不可欠な存在です。同社の強みであるSPA(製造小売業)モデルを支えているのは、まさにこのような部門横断的な視点を持つ人材であると推察されます。

日本の製造業への示唆

このファーストリテイリング社の事例から、我々日本の製造業が学ぶべき点は少なくありません。最後に、実務への示唆として要点を整理します。

1. 若手人材への戦略的な海外経験の提供
国内工場で基礎を固めることはもちろん重要ですが、グローバルな競争が前提となる現代においては、より早い段階で海外の生産拠点やサプライヤーとの協業を経験させることが不可欠です。長期赴任が難しい場合でも、短期出張や海外拠点との共同プロジェクトへの参加など、意図的に機会を創出することが、次世代のリーダー育成に繋がります。

2. 部門横断的なキャリアパスの設計
生産技術や品質管理の専門性を高めるだけでなく、その知見を活かして企画、開発、調達、営業といった他部門の業務を経験させるキャリアパスを検討する価値は大きいでしょう。これにより、部分最適に陥らず、事業全体を俯瞰して意思決定できる人材が育ちます。

3. 経営視点を持つ生産人材の育成
これからの生産管理は、単にQCDを守る「守り」の役割だけでは不十分です。市場の変化を読み、サプライチェーン全体を改革し、新たな価値を創造する「攻め」の役割が求められます。そのためには、現場経験に加えて、経営的な視点を養うための教育や機会を提供していく必要があります。

もちろん、業種や企業規模によって最適な人材育成の形は異なります。しかし、自社を10年後、20年後も成長させるために、どのような経験を積んだ人材が必要なのかを経営レベルで定義し、戦略的に育成プログラムを設計していくことの重要性は、全ての製造業に共通する課題と言えるでしょう。

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