米国の食品添加物制度「GRAS」の盲点と、日本の製造業が学ぶべき教訓

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米国の食品添加物に関する安全認証制度「GRAS」が、メーカーによる「自己認証」の抜け穴として機能しているとの批判が高まっています。この問題は、食品業界のみならず、日本の製造業全体が自社の品質保証やサプライチェーン管理のあり方を見直す上で重要な示唆を与えています。

はじめに:米国で問われる食品添加物の安全性

米国のニュース番組「60ミニッツ」で、同国の食品添加物に関する制度「GRAS(Generally Recognized as Safe:一般に安全と認められる物質)」が、超加工食品メーカーによって本来の趣旨とは異なる形で利用されている、という趣旨の報道がなされました。元FDA(米国食品医薬品局)長官などの専門家が、この制度の運用に警鐘を鳴らしており、製造業における製品の安全性と企業倫理が改めて問われる事態となっています。

GRAS制度とは何か

GRASとは、長年の食経験などから安全性が広く専門家に認知されている食品添加物について、FDAによる厳格な市販前承認プロセスを免除する制度です。この制度は、明らかに安全な物質に対して、企業や規制当局の負担を軽減し、製品開発を円滑に進めることを目的として導入されました。

しかし、問題となっているのはその運用方法です。特に、企業が自ら選んだ専門家パネルに諮問し、その意見をもって「GRASである」と自己認証(Self-affirmation)できる仕組みが、制度の抜け穴になっていると指摘されています。さらに、この自己認証の結果をFDAに届け出ることは義務ではなく、任意とされています。そのため、どのような物質が、どのような根拠で市場に出回っているのか、規制当局や消費者からは見えにくい構造になっているのです。

日本の製造現場から見た論点

この問題は、単に米国の食品安全規制の話にとどまりません。我々日本の製造業、特にグローバルに事業を展開する企業にとっては、いくつかの重要な視点を提供してくれます。

第一に、規制遵守(コンプライアンス)の考え方です。日本の食品添加物は、国が安全性を評価し使用を認めたものだけをリスト化する「ポジティブリスト制度」が基本であり、GRASのような自己認証の仕組みとは大きく異なります。しかし、海外の規制が自社の事業に直接的・間接的に影響を及ぼす可能性は常にあります。特に米国へ食品や関連製品を輸出している企業にとっては、GRAS制度の動向やそれに伴う世論の変化は、事業リスクに直結する重要な情報と言えるでしょう。

第二に、サプライチェーン管理の重要性です。自社製品に使用する原材料や添加物が、どこで、どのように製造され、どのような安全評価を受けているのかを正確に把握することは、品質保証の根幹です。海外から調達する原材料については、現地の規制や慣行を鵜呑みにするのではなく、自社の基準でその妥当性を検証し、サプライヤーと密に連携する体制が不可欠です。

最後に、企業の社会的責任(CSR)と透明性です。法規制の範囲内であっても、消費者の安全や健康に対する配慮を欠いた製品開発は、長期的に見れば企業のブランド価値を大きく損ないます。製品の安全性に関する情報を、いかに誠実に、そして透明性をもってステークホルダーに伝えていくか。その姿勢こそが、企業の持続的な成長を支える基盤となります。

日本の製造業への示唆

今回の米国の事例から、我々日本の製造業が実務レベルで得るべき示唆を以下に整理します。

1. 海外の規制・規格動向の継続的な監視
特に主要な輸出先である国や地域の規制変更、さらには規制を巡る社会的な議論にアンテナを張り、自社への影響を早期に分析・評価する体制を強化することが求められます。これは法務や品質保証部門だけの仕事ではなく、開発・調達・生産の各部門が連携して取り組むべき課題です。

2. サプライチェーンの透明性とトレーサビリティの向上
自社製品に使われる一次、二次原料に至るまで、その由来と安全性評価のプロセスを再点検することが重要です。特に海外サプライヤーに対しては、契約内容の確認だけでなく、現地の監査などを通じて、実態を把握する努力が不可欠となります。

3. 「守りの品質」から「攻めの品質」へ
法規制をクリアするという「守りの品質保証」にとどまらず、消費者の潜在的な不安に応え、より高いレベルの安全・安心を追求する「攻めの品質」へと意識を転換することが、企業の競争力に繋がります。安全性に関する情報を積極的に公開し、顧客との信頼関係を構築していく姿勢が、これからの製造業には一層求められるでしょう。

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