アフリカ連合(AU)の会合において、保健製品の域内製造を優先すべきとの考えが示されました。この動きは、パンデミックを経て世界的に加速するサプライチェーンの地域ブロック化と、アフリカ市場の新たな可能性を日本の製造業に示すものです。
背景:保健製品の安定供給を目指すアフリカの動き
先般開催されたアフリカ連合(AU)の首脳会合にて、ケニアのルト大統領が、医薬品や医療機器などの保健製品について、アフリカ域内での製造能力を強化し、優先的に取り組むべきであると強調しました。これは、特定の国や地域からの輸入に大きく依存する現状のサプライチェーンに対する、強い危機感の表れと見て取れます。特に、近年の世界的なパンデミックにおいて、ワクチンや医療物資の確保が国際的な課題となった経験は、各国・各地域における生産基盤の重要性を改めて浮き彫りにしました。これまで「消費市場」と見なされることが多かったアフリカが、「生産拠点」としての潜在力に目を向け始めた、重要な転換点と言えるでしょう。
現地生産化がもたらす変化と課題
保健製品の現地生産化は、アフリカにとって多くの利点をもたらします。第一に、サプライチェーンの寸断リスクを低減し、公衆衛生上の危機に対する即応性を高めることができます。第二に、製造業の振興を通じて雇用を創出し、技術移転を促すなど、持続的な経済発展の礎となり得ます。これは、単に工場を建設するという話にとどまらず、裾野の広い関連産業の育成にも繋がる大きな動きです。
一方で、これを実現するには多くの課題が存在します。安定した電力や水、物流網といったインフラの整備、製造と品質管理を担う人材の育成、そして国ごとに異なる法規制への対応など、乗り越えるべきハードルは決して低くありません。日本の製造業がこうした動きに関与する際には、これらの事業環境を慎重に見極める必要があります。
日本の製造業にとっての機会
このアフリカの新たな潮流は、日本の製造業にとって、長期的な視点に立てば大きな事業機会となり得ます。我々が長年培ってきた高品質なモノづくりを支える生産技術や品質管理のノウハウは、現地の製造業の基盤を構築する上で非常に価値の高いものです。例えば、厳格な温度管理や清浄度が求められる医薬品工場、精密な組立技術を要する医療機器の生産ラインなど、日本の知見が活かせる場面は数多く想定されます。
単に製品を輸出する、あるいは工場を建設して運営するだけでなく、現地の技術者や作業者へのトレーニング、品質保証体制の構築支援、生産性向上に向けた「カイゼン」活動の導入など、ソフト面での貢献が期待されます。こうした技術協力や人材育成を伴うアプローチは、現地政府や企業との強固な信頼関係を築き、持続可能な事業展開の基盤となるでしょう。
日本の製造業への示唆
今回の動きを踏まえ、日本の製造業関係者が留意すべき点を以下に整理します。
1. サプライチェーン戦略の再評価
地政学リスクの高まりや物流の不安定化を受け、グローバルサプライチェーンの多元化は多くの企業にとって喫緊の課題です。その中で、将来の成長市場であり、かつ生産拠点としての可能性を秘めるアフリカを、リスク分散の選択肢として検討する価値は十分にあります。
2. 長期的なパートナーシップの構築
アフリカでの事業展開は、短期的な利益追求ではなく、現地の産業育成に貢献するという長期的な視点が不可欠です。現地の政府や有力企業とのパートナーシップを構築し、共に成長を目指す「共創」の姿勢が成功の鍵を握ります。
3. 日本の「強み」の再認識と活用
日本の製造業が持つ、高品質を担保する生産管理技術や品質保証体制、そして現場の改善力は、世界的に見ても大きな強みです。この無形資産を、技術移転やコンサルティングといった形で事業化することも、新たなビジネスモデルとして考えられます。
4. 丁寧な情報収集とフィージビリティスタディ
アフリカは50以上の国々からなる広大な大陸であり、国や地域によって事業環境は大きく異なります。JICA(国際協力機構)やJETRO(日本貿易振興機構)などの公的機関が提供する情報を活用しつつ、具体的な進出を検討する際には、綿密な現地調査と事業性評価が不可欠です。


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