五輪金メダリストを支えた「米国製」スノーボード ― 国内生産の価値を再考する

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冬季五輪の金メダリスト、クロエ・キム選手が使用したスノーボードが、米国内で生産されたものであったことが話題となりました。この事実は、多くの産業で生産の海外シフトが進む中、国内でモノづくりを続けることの意義を我々に問いかけています。

オリンピックの舞台で証明された国内生産の価値

2022年の北京冬季五輪スノーボード・ハーフパイプ女子で金メダルに輝いたクロエ・キム選手。彼女の圧倒的なパフォーマンスを支えた用具が、ワシントン州セクイムに拠点を置くマーヴィン・マニュファクチャリング社(Mervin Manufacturing)によって製造されたスノーボードであったことが報じられました。驚くべきは、同社が現在、米国内に残る数少ない主要スノーボードメーカーの一つであるという事実です。

かつて多くのブランドが米国で生産を行っていましたが、製造コストの競争から、その多くが生産拠点を海外、特にアジアへと移していきました。これは、日本の製造業が経験してきた産業の空洞化と軌を一にする動きと言えるでしょう。そのような厳しい事業環境の中、マーヴィン社は国内での生産を堅持し、世界最高峰の舞台でその技術力と品質が証明されたのです。

なぜ国内生産を続けられるのか

海外生産へのシフトが加速する中で、同社が国内生産を維持できている背景には、いくつかの要因が考えられます。これは、同様の課題を抱える日本の製造現場にとっても、重要な示唆を含んでいます。

第一に、高付加価値な製品への特化が挙げられます。オリンピック選手が使用するような高性能な製品は、単なるコスト競争とは一線を画します。素材の選定、独自の製造プロセス、そして熟練した技術者の手作業など、品質を追求するためには、開発拠点と製造拠点が密接に連携していることが不可欠です。トップアスリートからの細かなフィードバックを即座に製品開発に反映させる俊敏性は、物理的な距離が近い国内生産ならではの強みと言えます。

第二に、「Made in USA」というブランド価値です。製品の背景にあるストーリー、つまり国内の雇用を守り、環境に配慮した(同社は環境負荷の少ない製造プロセスを謳っています)モノづくりを続ける姿勢そのものが、消費者の共感を呼び、価格以外の競争軸を生み出しています。これは、品質の代名詞であった「Made in Japan」が、今後どのような付加価値を訴求していくべきかを考える上で参考になります。

サプライチェーンと技術継承の視点

近年の世界的なサプライチェーンの混乱や地政学的リスクの高まりは、生産拠点を一国に集中させることの脆弱性を浮き彫りにしました。国内に生産拠点を維持することは、有事の際の供給安定性、すなわち事業継続計画(BCP)の観点からも、その戦略的重要性が再評価されています。

また、一度海外に移転した生産技術やノウハウを、再び国内に取り戻すことは容易ではありません。国内に生産現場を残すことは、次世代の技術者を育成し、日本のモノづくりの根幹である「現場力」を継承していく上でも、極めて重要な意味を持つのです。マーヴィン社の事例は、短期的なコスト最適化だけでなく、長期的な視点に立った生産戦略の重要性を示唆しています。

日本の製造業への示唆

今回の事例から、日本の製造業が学ぶべき点は多岐にわたります。以下に要点を整理します。

1. 国内生産の競争領域の再定義
全ての製品を国内で生産することは現実的ではありません。しかし、開発と製造の密な連携が求められる高機能製品、多品種少量生産品、あるいは試作品の領域においては、国内生産が依然として大きな競争優位性を持ちます。自社の製品ポートフォリオの中で、国内生産が最も価値を発揮する領域はどこか、見極める必要があります。

2. サプライチェーン強靭化の観点
コスト効率一辺倒のグローバルソーシングから、リスク分散を考慮したサプライチェーンの再構築が求められています。国内生産拠点を「マザー工場」として技術開発や人材育成の中核と位置づけるだけでなく、重要な製品群については国内での生産能力を維持・強化することも、経営の選択肢として重要度を増しています。

3. 「Made in Japan」の価値の再構築
単に高品質であるというだけでなく、その製品がどのような思想で、どのような技術者たちの手によって生み出されたのかという「物語」が、顧客の共感を呼び、ブランド価値を高める時代になっています。技術の継承、地域経済への貢献といった側面も含め、国内でモノづくりを続けること自体の価値を、積極的に発信していくことが求められるでしょう。

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