海外のMicrosoft Dynamicsパートナーに関する短いニュースは、一見すると日本の製造業には直接関係ないように思えるかもしれません。しかし、その背景を読み解くと、自社のDX(デジタルトランスフォーメーション)を成功に導くための重要なヒントが隠されています。
海外におけるERPパートナーの動向
先日、Microsoft社のERP/CRMソリューションであるDynamics 365を取り扱うパートナー企業に関する、2つの興味深い動きが報じられました。一つは、英国のITサービス企業Nexer社が、国内の製造業分野における事業成長を加速させるため、新たに業界専門の責任者を任命したというニュースです。もう一つは、米国のEndeavor4社が、同じくボストンを拠点とするDataSys社のMicrosoft関連顧客を引き継いだというものです。
これらはIT業界における日常的な企業活動の一端ですが、製造業が業務システムを選定し、導入プロジェクトを推進していく上で、示唆に富む内容を含んでいます。
「業界特化」が意味するもの
Nexer社が製造業専門の責任者を置いた背景には、ERPのような基幹システムの導入において、業界特有の業務プロセスへの深い理解が不可欠であるという認識があります。製造業の現場は、複雑な生産計画、多段階にわたる工程管理、厳格な品質トレーサビリティ、そして緻密なサプライチェーン管理など、他業種にはない特有の課題を抱えています。
システムの機能や技術的な優位性だけを語るITパートナーでは、現場の実態にそぐわない「絵に描いた餅」を提案しかねません。例えば、日本の製造業が強みとしてきた「すり合わせ」の文化や、現場主導のカイゼン活動といった無形の価値を理解せず、ただ標準化を推し進めるだけでは、かえって現場の競争力を削いでしまう危険性すらあります。製造業の言葉を理解し、その業務に精通したパートナーこそが、真に価値のあるDX支援を提供できるのです。
ITパートナーの継続性と専門性
一方、Endeavor4社による顧客の引き継ぎは、ITソリューションを提供する企業の合従連衡が絶えず起きている現実を示しています。基幹システムの導入は、一度行えば5年、10年と長期にわたって利用し続けるものです。その間、導入を支援してくれたパートナー企業が、事業譲渡や合併によって変わる可能性は常にあります。
導入を決定する際には、製品の機能だけでなく、提供元であるパートナー企業の経営安定性や事業継続性、そして特定分野への注力姿勢といった点も評価軸に加えるべきでしょう。万が一、サポート体制が変わったとしても、自社の事業を理解し、継続的に支援を受けられるのか。これは、システムという重要な経営インフラを委ねる上で、見過ごすことのできない重要な視点です。
日本の製造業への示唆
今回の海外事例は、日本の製造業がDXを推進する上で、改めて以下の点を問い直すきっかけを与えてくれます。
1. パートナー選定における「業界知見」の重視
システム導入を検討する際、機能比較や価格だけでパートナーを選定していないでしょうか。自社の業界、特にものづくりの現場で使われる言葉や業務の流れを深く理解しているか、という点を評価基準の重要な柱に据えることが、プロジェクトの成功確率を大きく左右します。過去の導入実績だけでなく、担当者の業界知識の深さを見極めることが肝要です。
2. DX推進における社内体制の確認
優れた外部パートナーを見つけたとしても、自社内にその専門性を活かす体制がなければ宝の持ち腐れとなります。情報システム部門と製造現場、そして経営層が一体となり、自社の課題を的確に言語化し、パートナーと対等に議論できる体制が築けているか。外部の知見を最大限に活用するためには、受け手である自社の成熟度も問われます。
3. 長期的な視点でのパートナーシップ構築
システム導入はゴールではなく、継続的な改善のスタートです。事業環境の変化に対応し、システムを進化させていくためには、長期にわたって伴走してくれる信頼できるパートナーの存在が不可欠です。目先の導入コストだけでなく、将来にわたる関係性を見据え、企業の安定性や事業戦略も考慮に入れた総合的な判断が求められます。


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