米国のスタートアップDidero社が、AIを活用した製造業向け調達プラットフォームで3,000万ドル(約45億円)の大型資金調達を実施したことが報じられました。これは、これまで人手と経験に頼ることが多かった調達業務が、「エージェントAI」によって自律的に遂行される新時代が到来しつつあることを示唆しています。
AIが自ら判断し、調達業務を代行する
米TechCrunch誌が報じたところによると、Didero社が開発するプラットフォームは、製造業や販売代理店が製品の製造・販売に必要な原材料や部品を調達するプロセスを自動化するものです。特筆すべきは、そのコンセプトが「agentic autopilot(エージェント型自動操縦)」と表現されている点です。これは、単に決められた手順を繰り返すRPA(Robotic Process Automation)のような自動化とは一線を画します。
ここで言う「エージェントAI」とは、与えられた目標(例:特定の部品を、品質・コスト・納期の要件を満たして調達する)に基づき、AI自身がサプライヤーの調査、候補のリストアップ、見積依頼、価格や納期の交渉、そして最適な発注先の選定といった一連のタスクを自律的に判断し、実行することを意味します。あたかも、経験豊富な購買担当者が一人増えたかのような働きをすることが期待されているのです。
なぜ今、調達業務の「自律化」が求められるのか
日本の製造業においても、調達部門は多くの課題を抱えています。サプライチェーンのグローバル化・複雑化は、地政学リスクや自然災害など、予測不能な変動要因を増大させました。最適なサプライヤーを常に探し出し、安定した供給を維持するための業務負荷は増すばかりです。
加えて、国内では多くの企業が人材不足に直面しており、調達業務も例外ではありません。長年の経験と勘に支えられたベテラン担当者の知見は属人化しやすく、技術伝承がうまくいかなければ、企業の調達力そのものが低下してしまうリスクをはらんでいます。単純な作業を自動化するだけでなく、こうした高度な判断業務を支援・代行するテクノロジーへの期待が高まるのは、必然的な流れと言えるでしょう。
人間はより戦略的な業務へ
こうしたAIプラットフォームが普及した場合、調達担当者の役割も変化していくと考えられます。日々の見積取得や価格交渉、発注といった定型的な業務はAIに任せ、人間はより付加価値の高い業務に集中できるようになるでしょう。
例えば、新規サプライヤーとの戦略的な関係構築、未開拓の技術や素材のリサーチ、サプライチェーン全体のリスクマネジメント戦略の立案など、企業の競争力を左右する、より創造的で戦略的な役割を担うことが求められます。AIを単なる効率化ツールとしてではなく、優秀な「アシスタント」として活用することで、調達部門全体の能力を底上げすることに繋がる可能性があります。
日本の製造業への示唆
今回のDidero社の動向は、米国の事例ではありますが、日本の製造業にとっても重要な示唆を含んでいます。
1. 調達DXの次なるステップ
これまで調達業務のデジタル化は、見積比較サイトの利用や発注プロセスの電子化が中心でした。今後は、AIが能動的に市場を分析し、最適な調達を提案・実行する「自律化」が一つの大きな潮流となる可能性を認識しておく必要があります。
2. 属人化からの脱却とナレッジの形式知化
ベテランのノウハウをAIに学習させ、組織の資産として継承していくという視点は、事業継続性の観点から非常に重要です。AIプラットフォームは、個人の頭の中にあった知見を、データに基づいた客観的なプロセスへと転換する一助となり得ます。
3. まずは自社業務の棚卸しから
すぐにこうした最先端のツールを導入することは現実的でないかもしれません。しかし、自社の調達業務において、どの部分が非効率で、どこが属人化しており、どのようなリスクが存在するのかを可視化し、整理しておくことは不可欠です。課題が明確になれば、部分的な自動化から始めるのか、あるいは将来的な全体最適を目指すのか、次の一手が見えてくるはずです。
サプライチェーンの不確実性が高まる現代において、調達部門の強靭化は経営の最重要課題の一つです。こうした海外の新しいテクノロジーの動向を注視しつつ、自社の現状と照らし合わせ、将来に向けた調達戦略を検討していくことが求められます。


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