海外の求人情報などで散見される「SHEQマネージャー」という役職をご存じでしょうか。これは安全(Safety)、衛生(Health)、環境(Environment)、品質(Quality)を統合的に管理する責任者を指します。本稿では、このSHEQという考え方の本質と、それが日本の製造業にとってどのような意味を持つのかを解説します。
SHEQとは何か? – 4つの要素の統合
SHEQとは、企業の事業活動における重要な4つの管理要素、すなわち安全(Safety)、労働衛生(Health)、環境(Environment)、そして品質(Quality)の頭文字を取った言葉です。製造業において、これらの要素はそれぞれが独立した重要なテーマであり、多くの場合、品質管理部門、安全衛生委員会、環境管理部門といった専門の組織によって管理されてきました。
SHEQマネジメントは、これら個別の管理活動を一つの統合マネジメントシステム(IMS: Integrated Management System)として捉え、組織全体で効率的かつ効果的に運用することを目指す考え方です。例えば、ISO 9001(品質)、ISO 45001(労働安全衛生)、ISO 14001(環境)といった国際規格も、近年は構造が統一化され、統合して運用しやすいように設計されています。SHEQは、まさにこの流れを体現する概念と言えるでしょう。
なぜ今、SHEQ(統合マネジメント)が注目されるのか
なぜ、これらの要素を統合して管理する必要があるのでしょうか。その背景には、いくつかの実務的なメリットが存在します。
第一に、管理業務の効率化とコスト削減です。各マネジメントシステムで個別に行っていた文書管理、内部監査、教育訓練、マネジメントレビューなどを一本化することで、業務の重複をなくし、管理に要する工数やコストを大幅に削減できます。
第二に、リスク管理の高度化です。工場の現場では、安全、環境、品質に関するリスクは密接に関連しています。例えば、ある化学物質の取り扱いは、作業者の健康(H)、漏洩による環境汚染(E)、製品への異物混入(Q)、そして誤操作による事故(S)といった、複数のリスクを内包しています。これらを統合的に評価し対策を講じることで、個別の管理では見落としがちな複合的なリスクを低減させることが可能になります。
そして第三に、組織文化の醸成です。「安全第一」や「品質至上」といったスローガンは重要ですが、時としてセクショナリズムを生むこともあります。SHEQの考え方は、「安全も、環境も、品質も、すべてが高いレベルで維持されてこそ企業の持続的成長がある」という統一された価値観を組織に根付かせ、従業員の意識を一つの方向に向ける助けとなります。
日本の製造現場におけるSHEQの視点
日本の製造業は、QCサークル活動や5S活動などを通じて、品質(Q)を基軸に安全(S)や生産性向上を一体で考える文化が現場に根付いています。これは、SHEQの考え方と親和性が高い日本の強みと言えるでしょう。
しかしその一方で、環境管理や労働安全衛生は、法規制への対応という側面が強く、専門部署が担当する「縦割り」の構造に陥りやすい傾向も見られます。SHEQの考え方を導入することは、こうした部門間の壁を取り払い、工場全体の最適化を図る良い機会となります。例えば、品質不良の削減は、手直し作業の減少(安全リスク低減)、廃棄物の削減(環境負荷低減)、そして製造コストの削減に直結します。このように、一つの改善活動が持つ多面的な効果を組織全体で認識し、推進することが可能になるのです。
日本の製造業への示唆
SHEQという概念は、日本の製造業が今後さらに競争力を高めていく上で、重要な示唆を与えてくれます。
1. 組織のサイロ化の打破:
品質、安全、環境の各担当部門が連携を深め、共通の目標と指標を持つことが重要です。管理システムを統合的に見直すことは、部門間の対話を促し、組織の風通しを良くするきっかけとなります。
2. 俯瞰的な視点を持つ人材の育成:
工場長や現場リーダーには、Q、S、E、Hのいずれか一つの専門家であるだけでなく、これらを俯瞰的に理解し、トレードオフの関係ではなく相乗効果を生み出す改善を主導できる能力が求められます。複合的な視点を持つ人材の育成が、将来の競争力を左右します。
3. 経営層の明確なコミットメント:
SHEQの統合は、現場任せでは進みません。経営層が、これらの活動を単なるコストではなく、企業の持続的成長と社会的責任を果たすための重要な投資であるという明確なメッセージを発信し、トップダウンで推進することが不可欠です。
4. 実践的な連携からの開始:
最初から大規模なシステム統合を目指す必要はありません。まずは、品質・安全・環境の合同工場パトロールの実施や、リスク評価会議の共同開催など、実践的で具体的な連携から始めることが有効です。小さな成功体験を積み重ねることが、大きな変革へと繋がっていきます。


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