米Watkins Manufacturing社が製造するスパ(温浴設備)の一部で、ジェットノズル脱落による溺水リスクが指摘され、リコールが発表されました。この事例は、製品の設計段階における安全性評価や、ユーザーの利用シーンを想定したリスク分析の重要性を我々に再認識させます。
概要:スパ用ジェットノズルのリコール
2024年6月、米国消費者製品安全委員会(CPSC)は、Watkins Manufacturing社が製造する「Highlife Collection」スパに搭載されたハイドロマッサージ用ロータリージェットのリコールを発表しました。報告によると、ジェットのノズル部分が予期せず外れることがあり、その結果として露出した吸引口に利用者の髪が吸い込まれ、絡まることで溺水に至る重大な危険性(Entanglement and Drowning Hazards)があるとされています。同社は消費者に対し、直ちに対象ジェットの使用を中止し、無償の交換部品を入手するよう呼びかけています。
問題のメカニズムと潜在的リスク
この問題の核心は、一つの部品(ジェットノズル)が脱落することで、製品が極めて危険な状態に陥る点にあります。通常、ジェットノズルは水を噴出するための部品ですが、これが外れると、ポンプに繋がる配管の吸引口が直接利用者に接する状態となります。水中、特に強力なポンプが稼働している状況下では、この吸引口は長髪などを容易に吸い込み、利用者の身体を拘束してしまう可能性があります。このような「絡まり(Entanglement)」による事故は、特にプールやスパといった水環境において、致命的な結果を招きかねない重大なハザードとして認識されています。
設計・品質管理上の考察
日本の製造業の視点からこの事例を考察すると、いくつかの重要な論点が見えてきます。まず、設計段階におけるリスクアセスメント、特にFMEA(故障モード影響解析)が十分であったかという点です。ジェットノズルが「緩む」「外れる」という故障モードを想定し、その影響が「利用者の溺水」という最悪のシナリオに至る可能性を、設計者は予見する必要がありました。
また、部品が一つ故障・脱落しただけで重大事故につながる「シングルポイント故障」を回避する設計思想、いわゆるフェールセーフの考え方が十分ではなかった可能性も指摘できます。例えば、ノズルが脱落した場合にはポンプの吸引力が自動的に低下する機構や、そもそも吸引口に髪が絡まらないような構造(二重のカバーや特殊な格子形状の採用など)を検討する余地があったかもしれません。部品の固定方法、使用される材質の耐久性、長期使用や水質による劣化の考慮など、品質管理や信頼性評価の観点からも検証すべき項目は多岐にわたります。
日本の製造業への示唆
この一件は、対岸の火事として片付けるべきではありません。自社の製品開発や品質保証体制を振り返るための貴重な教訓を含んでいます。以下に、我々が学ぶべき点を整理します。
1. ユーザーの利用環境・行動の深い洞察
製品が実際にどのような環境で、どのようなユーザー(子供、高齢者、長髪の人など)によって使われるかを具体的に想定することが、リスクを洗い出す上での出発点となります。机上のスペックだけでなく、現実の利用シーンに潜む危険を徹底的に分析する姿勢が求められます。
2. 「万が一」を想定した安全設計の徹底
単一の部品が故障しただけで致命的な事態を招く設計は、可能な限り避けなければなりません。フールプルーフ(誤使用防止)やフェールセーフ(故障時の安全確保)の原則を設計の初期段階から織り込み、多重の安全策を講じることが不可欠です。
3. 設計段階での体系的なリスクアセスメント
FMEAやDRBFM(Design Review Based on Failure Mode)といった手法を形骸化させることなく、実質的な議論の場として活用することが重要です。特に、過去の市場不具合や他社のリコール事例を水平展開し、自社製品に同様のリスクがないかを確認するプロセスは、組織的に組み込まれるべきです。
4. 市場投入後の品質情報収集と迅速な対応
市場からの情報を早期に収集し、潜在的なリスクを検知する仕組みもまた重要です。万が一、今回のような重大な欠陥が発見された場合には、顧客の安全を最優先し、迅速かつ誠実な対応(情報公開、リコール、改修など)を行うための体制を常に整備しておく必要があります。


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