日本科学未来館で開催されている、ものづくりのプロセスをボードゲームで表現した展示が注目されています。このユニークな試みは、次世代への魅力発信だけでなく、我々製造業が抱える人材育成や技術伝承の課題を考える上で、多くの示唆を与えてくれます。
「ものづくり」をボードゲームで伝える試み
日本科学未来館にて、「未来のモビリティを創る! — ものづくりすごろく」と題した企画展が開催されています。この展示は、未来の移動手段をテーマに、製品が企画されてから顧客の手に届くまでの「ものづくり」の道のりを、日本の伝統的なボードゲームである「すごろく」形式で体験できるという、非常にユニークなものです。主に次世代を担う若者や一般の方々を対象に、ものづくりの面白さや複雑さを直感的に伝えることを目的としています。
製造プロセスの可視化と全体像の把握
我々、製造業に携わる者にとって、この試みは示唆に富んでいます。工場では、従業員が担当する工程に習熟する一方で、製品開発の初期段階から市場投入までの全体像を把握する機会は限られがちです。特に、大規模な組織や複雑なサプライチェーンを持つ企業では、自分の仕事が全体のどの部分を担い、前後の工程とどう連携しているのかを意識することは容易ではありません。
この展示で用いられている「すごろく」という手法は、企画、研究開発、設計、調達、生産準備、製造、品質保証、出荷といった一連のプロセスを、ステップを追って可視化する優れたモデルと言えるでしょう。このようなアプローチは、新入社員研修や、部門を横断した改善活動の際に、参加者の共通理解を形成するためのツールとして応用できる可能性があります。
サプライチェーンの複雑性と部門間連携の重要性
テーマである「未来のモビリティ」は、まさに現代のものづくりの象徴です。従来の機械工学に加え、エレクトロニクス、ソフトウェア、新素材、AIなど、多岐にわたる技術領域が複雑に絡み合い、多くのサプライヤーとの連携なくしては成り立ちません。このすごろくの各マスは、単なる工程の連続ではなく、様々な意思決定や部門間の連携、外部パートナーとの協業を表していると捉えることができます。
自社の従業員が、サプライチェーン全体における自社の役割と責任を俯瞰的に理解することは、品質意識の向上や、予期せぬ問題が発生した際の迅速な対応に繋がります。各部門が自らの役割に閉じこもるのではなく、製品という一つのゴールに向かって連携する「全体最適」の視点を育む上で、こうしたプロセスの可視化は有効な手段となり得ます。
日本の製造業への示唆
今回の日本科学未来館の展示は、一般向けの啓発活動にとどまらず、日本の製造業が直面する課題解決のヒントを与えてくれます。以下に、実務への示唆を整理します。
1. 人材育成と技術伝承への応用
複雑な製造プロセスやサプライチェーンの流れを、ゲームやシミュレーション形式でモデル化し、研修プログラムに組み込むことは有効です。特に若手従業員が、ものづくりの全体像と自身の仕事の意義を早期に理解する助けとなります。
2. 部門間コミュニケーションの活性化
製品が生まれるまでの全工程を可視化したマップやツールを作成し、共有することは、設計、生産技術、製造、品質保証といった部門間の壁を取り払い、円滑な連携を促すきっかけとなり得ます。問題発生時の原因究明や、開発リードタイムの短縮といった具体的な効果も期待できるでしょう。
3. サプライチェーン全体の視点の醸成
自社の活動がサプライチェーンの中でどのような価値を生み出しているのかを従業員一人ひとりが理解することは、当事者意識とモチベーションを高めます。外部パートナーとの連携を強化する上でも、こうした全体を俯瞰する視点は不可欠です。
4. ものづくりの魅力の発信
社内教育だけでなく、工場見学やインターンシップ、採用活動の場面で、自社のものづくりのプロセスを分かりやすく伝えるためのツールとして、こうしたモデル化の手法は応用できます。次世代の担い手に製造業の仕事の面白さを伝える上で、有効なアプローチと言えるでしょう。


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