敷地境界でのVOC監視(フェンスラインモニタリング)の重要性 ―韓国の合成樹脂工場における調査より―

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揮発性有機化合物(VOC)の排出管理は、環境保全と地域社会との共生の観点から、製造業にとって重要な経営課題です。本稿では、韓国の合成樹脂・プラスチック工場を対象に行われたVOC排出に関する調査研究を紹介します。敷地境界での濃度を監視する「フェンスラインモニタリング」という手法が、今後の工場運営や環境管理にどのような示唆を与えるのかを解説します。

はじめに – VOC排出管理の継続的な課題

揮発性有機化合物(VOC)は、光化学オキシダントや浮遊粒子状物質(SPM)の原因となるだけでなく、一部の物質は発がん性や特有の臭気を有することから、大気汚染防止法をはじめとする各種法令で排出が規制されています。日本の製造現場においても、塗装、洗浄、化学合成などの工程で発生するVOCの管理は、長年にわたり重要なテーマであり続けています。特に化学工場やその周辺地域では、環境基準の遵守はもちろんのこと、地域住民の安心・安全を確保するための自主的な取り組みが求められます。

韓国の化学工場におけるVOC排出実態調査

今回ご紹介する研究は、韓国の合成樹脂およびプラスチック製造工場を対象に、VOCの排出実態を詳細に調査したものです。この調査の特筆すべき点は、「フェンスラインモニタ基本的な手法です。しかし、この手法だけでは、プラント内の配管フランジやバルブ、ポンプの軸シールなどから微量に漏れ出す「漏洩排出(Fugitive Emissions)」や、非定常作業時に偶発的に発生する排出を捉えきれない場合があります。

調査で用いられた測定手法とその意義

この調査では、敷地境界におけるVOC濃度を把握するため、特性の異なる2種類の測定手法が併用されました。一つは、電源が不要で設置が容易な「パッシブ拡散サンプラー」です。これは一定期間設置することで、その間の平均的な大気中濃度を把握するのに適しています。もう一つは、ポンプで強制的に大気を吸引する「アクティブサンプラー」で、短時間での高精度な測定が可能であり、濃度の日内変動や時間ごとの変化を捉えることができます。

このように、目的の異なる複数の手法を組み合わせることで、平常時の全体的な濃度レベルと、特定の時間帯や気象条件下で発生する濃度の上昇(ピーク)を多角的に評価することが可能になります。これは、排出源の特定や対策効果の検証において、非常に有効なアプローチと言えるでしょう。

フェンスラインモニタリングがもたらすもの

フェンスラインモニタリングによる継続的なデータ収集は、工場運営にいくつかの重要な示唆を与えます。まず、これまで見過ごされがちだった微量な漏洩排出の存在を可視化できる可能性があります。敷地境界で原因不明のVOCが断続的に検出された場合、それはプラント内のどこかで小規模な漏洩が起きているシグナルかもしれません。これにより、大規模な設備トラブルや環境事故に至る前の「予兆管理」が可能になります。

また、風向・風速といった気象データとVOC濃度データを突き合わせることで、敷地内のどのエリアから排出された物質が、どの方向に拡散しているのかを推定することもできます。これは、排出源の特定だけでなく、周辺環境への影響をより正確に評価し、地域住民に対して客観的なデータに基づいた説明を行う上でも役立ちます。

日本の製造業への示唆

今回の韓国での調査事例は、日本の製造業、特に化学プラントや大規模工場における環境管理のあり方を考える上で、貴重な視点を提供してくれます。以下に、本件から得られる実務的な示唆を整理します。

1. 排出源管理の高度化
従来の煙突など「点排出源」の管理に加えて、敷地全体をカバーする「面」での管理、すなわちフェンスラインモニタリングの導入は、環境管理レベルを一段引き上げる可能性があります。これにより、予期せぬ漏洩や非定常排出を早期に検知し、迅速な対応をとることが可能になります。

2. データに基づく地域社会との対話
敷地境界での客観的な測定データは、周辺住民や自治体に対して、工場の環境保全活動を具体的に説明するための強力なツールとなります。憶測や不安に基づく議論ではなく、事実に基づいた対話を通じて、工場の操業に対する理解と信頼を醸成することに繋がります。

3. 予防保全とリスク管理への応用
敷地境界での異常な濃度上昇は、生産設備の不調や劣化のサインである可能性があります。これを早期に捉えることで、設備の予防保全に繋げ、生産停止や製品の品質不良といった経営リスクを低減させる効果も期待できます。

4. 適切な測定技術の選択
やみくもに高価な測定器を導入するのではなく、工場の特性や管理の目的に応じて、パッシブサンプラーによる広域・長期的な監視と、アクティブサンプラーによる重点的・短期的な監視を組み合わせるなど、費用対効果の高い測定計画を立案することが重要です。

VOC排出管理は、規制遵守という受け身の姿勢から、リスク管理と地域共生のための積極的な取り組みへと進化しています。海外の先進的な事例を参考にしつつ、自社の状況に合わせた管理手法を検討していくことが、これからの製造業には求められています。

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