欧州の大手製造業の求人情報で見られた「自律型生産ユニット(Autonomous Production Unit)」という組織概念。これは、従来の生産ラインや部署とは一線を画す、権限移譲と自己完結性を特徴としています。本稿では、このAPUの考え方を紹介し、日本の製造業における組織改革や人材育成への示唆を考察します。
はじめに:海外の求人情報に見る「自律型生産ユニット」
先日、フランスの大手航空宇宙・防衛関連企業であるサフラングループが、モロッコの拠点で「自律型生産ユニット(Autonomous Production Unit = APU)マネージャー」を募集している求人情報が目に留まりました。職務内容には「品質、エンジニアリング、生産管理といったサポート部門に対して、必要なアクションの優先順位を定義する」といった記述があり、これは我々日本の製造業にとっても示唆に富む組織のあり方を示しているように思われます。
「自律型生産ユニット(APU)」の概念
「自律型生産ユニット(APU)」とは、単なる生産ラインや製造課といった区画を指す言葉ではありません。特定の製品群や工程を担当し、生産目標の達成に向けて、品質、コスト、納期、安全、そして改善活動に至るまで、大きな責任と権限を持って自己完結的に運営される組織単位を指すものと考えられます。日本の製造現場で言えば、セル生産方式や屋台方式、あるいはトヨタ生産方式におけるチーム制の考え方を、より大きな組織単位に適用し、マネジメントレベルでの権限移譲を明確にしたものと捉えることができるでしょう。
APUの最大の特徴は、その「自己完結性」にあります。従来であれば、品質問題は品質管理部、設備トラブルは保全部、生産計画の変更は生産管理部といったように、機能別の専門部署が対応していました。しかしAPUでは、ユニット内に品質担当者や保全担当者が配置されたり、あるいはユニットマネージャーが主体となってこれらの専門部署に必要な支援を要請したりすることで、ユニット内で迅速に問題解決を図る体制が構築されます。
APUマネージャーに求められる役割
APUを率いるマネージャーの役割は、従来の製造課長とは大きく異なります。定められた計画通りに生産を管理するだけでなく、ユニット全体のパフォーマンスに責任を持つ「ミニ工場長」のような存在です。冒頭で紹介した求人情報の記述が示すように、APUマネージャーは、ユニットの目標達成のために、品質保証、生産技術、生産管理といった間接部門(サポート部門)を、いわば「社内コンサルタント」や「専門サービス」として主体的に活用します。どの問題に優先的に取り組むべきか、どの部門からどのような支援を得るべきかを自ら判断し、交渉・調整する役割を担うのです。
これは、現場と間接部門の関係性が、従来の「管理する側とされる側」から、「サービスを提供する側と、それを活用する顧客」へと変化することを示唆しています。APUマネージャーには、生産管理の知識はもとより、品質、設備、原価計算、そして何よりもチームを率いるリーダーシップや、他部署と折衝する高度なコミュニケーション能力が求められます。
なぜ今、自律型組織が求められるのか
このような自律的な組織が求められる背景には、市場環境の急速な変化があります。顧客の要求は多様化・高度化し、製品ライフサイクルも短縮化の一途をたどっています。こうした状況下では、工場管理部門や本社からのトップダウンの指示を待っていては、変化のスピードに対応できません。問題が発生したその場で、現場に最も近い組織が迅速に意思決定し、行動できる体制を築くことが、競争力を維持・向上させる上で不可欠となっています。
また、従業員の働きがいという観点からも重要です。自分たちのチームで目標を設定し、知恵を出し合って課題を解決していくプロセスは、従業員の当事者意識やモチベーションを高めます。日本の製造業が長年培ってきたQCサークル活動などの小集団改善活動を、より大きな権限と責任を持つ組織単位で実践する形とも言えるでしょう。
日本の製造業への示唆
この「自律型生産ユニット(APU)」という考え方は、日本の製造業が抱える課題を乗り越えるための一つのヒントとなり得ます。以下に、実務的な示唆を整理します。
1. 組織設計の見直しと権限移譲の断行
機能別の縦割り組織は、専門性を高める一方で、部門間の壁や責任の所在の曖昧さを生みがちです。製品別や工程別にAPUのような自己完結型の組織を導入することで、意思決定の迅速化と責任の明確化が期待できます。重要なのは、単に「責任」を与えるだけでなく、目標達成に必要な予算、人員、改善の実行に関する「権限」をセットで現場に移譲することです。
2. 次世代リーダー(工場長候補)の育成
APUマネージャーのポジションは、将来の工場長や事業部長を育成するための絶好の機会を提供します。生産だけでなく、品質、コスト、設備、人事といった経営資源全般を俯瞰し、部門横断的な課題解決を経験させることで、より高い視座を持った経営幹部候補を計画的に育成することが可能になります。
3. 間接部門の役割変革
APUの導入は、間接部門にも変革を迫ります。現場を管理・監督する立場から、現場の生産性や品質向上を支援する「専門家集団」「サービスプロバイダー」へと意識と役割を変える必要があります。現場の課題に寄り添い、専門的な知見を提供して成功に貢献することが、間接部門の新たな付加価値となります。
APUは、単なる組織図の変更ではなく、工場の運営思想そのものを変える可能性を秘めています。自社の実情に合わせてそのエッセンスを取り入れることは、変化に強く、人が育つ生産現場を構築する上で、検討に値するテーマと言えるでしょう。


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