日本の製造業が直面する深刻な人材不足に対し、場当たり的な採用活動では太刀打ちできなくなりつつあります。海外の議論を参考に、これからの人材獲得に求められる「科学的アプローチ」と、候補者の心を動かす「技術的アプローチ」について考察します。
深刻化する製造業の人材確保という経営課題
少子高齢化による労働人口の減少に加え、若者の製造業離れは、多くの企業にとって喫緊の経営課題となっています。特に、熟練技術者の高齢化と退職による技術・技能の継承問題は、工場の競争力そのものを揺るがしかねません。また、DXやGXといった新たな潮流に対応するため、デジタル技術や環境技術に精通した新しいタイプの人材も求められており、人材獲得競争はますます激化しています。
このような状況下で、従来の縁故採用や求人広告を出すだけの待ちの姿勢では、必要な人材を確保することは困難です。これからの製造業の採用活動には、より戦略的で体系的なアプローチが不可欠と言えるでしょう。
人材獲得における「科学(Science)」と「技術(Art)」
海外の議論では、人材獲得を「科学(Science)」と「技術(Art)」の両面から捉える考え方があります。これは、日本の製造業においても非常に示唆に富む視点です。
「科学」的アプローチとは、データや論理に基づいた採用活動を指します。具体的には、事業戦略から逆算して本当に必要な人材要件を定義し、採用市場のデータを分析してターゲット層を特定、そして選考プロセスにおける評価基準を明確にすることなどが挙げられます。勘や経験、個人の感覚に頼るのではなく、採用活動全体を客観的な事実に基づいて設計・管理する考え方です。これにより、採用のミスマッチを減らし、再現性を高めることができます。
一方、「技術」的アプローチとは、候補者の感情や心理に働きかける人間的な側面を指します。企業のビジョンや仕事の魅力をいかに情熱を持って語れるか、候補者一人ひとりのキャリアプランに真摯に寄り添えるか、といったコミュニケーションの質が問われます。特に、優秀な人材ほど複数の選択肢を持っています。最終的に入社を決断する後押しとなるのは、待遇面だけでなく、そこで働く人々の魅力や企業文化への共感であることが少なくありません。これは面接官や現場の受け入れ担当者のスキルや姿勢に大きく依存する、まさに「技術」と言える領域です。
経営幹部や専門人材の採用における視点
元記事では、エグゼクティブリクルーターの知見が紹介されています。工場長や開発部門の責任者といった経営幹部クラス、あるいは特定の分野に秀でた専門家を採用する場合、その成否は事業の将来を大きく左右します。こうした重要なポジションの採用においては、外部の専門家(リクルーター)と連携し、非公開で候補者を探し出す「リテインドサーチ」のような手法も有効です。
しかし、単に外部に丸投げするだけでは成功しません。経営層自らが採用にコミットし、候補者に対して事業の将来像を熱心に語り、口説き落とすという強い意志が求められます。これは前述の「技術(Art)」の最たる例であり、経営者の重要な責務の一つです。
現場が求める人材を惹きつけるために
採用は経営層や人事だけの仕事ではありません。工場や現場で働くリーダーや技術者自身が、自社の仕事の面白さや働きがいを外部に発信していくことも重要です。例えば、自社の技術ブログやSNSで開発秘話や技術的なこだわりを発信する、あるいは地域の学生向けに工場見学や出前授業を企画するといった地道な活動が、将来の候補者に対する有効なアピールとなります。
候補者にとって、給与や福利厚生はもちろん重要ですが、それ以上に「この会社で何が学べるのか」「どのような技術者として成長できるのか」という点に強い関心を持っています。現場の社員が生き生きと働く姿を見せることが、何よりの魅力付けになるのです。
日本の製造業への示唆
人材獲得を持続的な経営課題として捉え、戦略的に取り組むことが不可欠です。今回の考察から、日本の製造業が実務において留意すべき点を以下に整理します。
1. 人材要件の再定義と明確化:
「コミュニケーション能力が高い若手」といった曖昧な要望ではなく、事業計画や現場の課題に基づき、必要なスキル、経験、人物像を具体的に言語化することが全ての出発点となります。
2. 採用プロセスのデータに基づいた改善:
応募から採用までの各段階の通過率や、採用決定に至った要因などをデータで可視化し、どこに課題があるのかを客観的に分析・改善するサイクルを回す視点が求められます。
3. 企業の魅力の言語化と発信力の強化:
自社の持つ独自の技術、顧客からの信頼、働きがいのある職場環境といった魅力を、改めて整理し、社内外に伝わる言葉で発信し続ける必要があります。これは人事部門だけでなく、経営層から現場の従業員まで、全社で取り組むべき活動です。
4. 経営層と現場の採用への主体的な関与:
人材獲得は企業の未来を創る投資です。経営層はビジョンを語り、現場は仕事のやりがいを伝えるという役割分担のもと、一丸となって候補者にアプローチする姿勢が、これからの人材獲得競争を勝ち抜く鍵となるでしょう。


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