世界の自動車業界において、事業の「選択と集中」を加速させる動きが顕在化しています。今回は、テスラによる一部車種の右ハンドル仕様の生産中止と、ホンダ・GMによる燃料電池システムの共同生産事業の終了という二つの事例を取り上げ、その背景と日本の製造業への影響を考察します。
テスラの右ハンドル仕様廃止に見る「生産効率の徹底追及」
電気自動車(EV)大手のテスラが、同社の高価格帯モデルである「モデルS」と「モデルX」の右ハンドル(RHD)仕様の生産を中止し、新規受注も停止したことが報じられました。これにより、日本や英国、オーストラリアといった右ハンドル市場向けの供給が事実上終了することになります。この決定は、同社がいかに生産効率の最大化を重視しているかを示す象徴的な出来事と言えるでしょう。
一般的に、自動車の生産ラインにおいて左右異なるハンドル仕様を作り分けることは、部品管理の複雑化や組み立て工程の切り替えなど、様々な非効率を生み出す要因となります。テスラは、比較的販売台数の少ない右ハンドル仕様を廃止し、左ハンドル仕様に生産を一本化することで、サプライチェーンの簡素化、製造コストの削減、そして生産リードタイムの短縮を図る狙いがあると考えられます。これは、グローバルで事業を展開する製造業にとって、市場規模や収益性に基づき、製品ラインナップを大胆に見直す「選択と集中」の好例です。日本のメーカーにおいても、多品種少量生産が求められる一方で、どこまで仕様の共通化や絞り込みを進めるべきか、改めて議論するきっかけとなるかもしれません。
ホンダ・GMの燃料電池共同開発終了が示す「技術戦略の再評価」
次に、ホンダとゼネラルモーターズ(GM)が、燃料電池(FC)システムを共同生産するために設立した合弁事業を終了させるというニュースです。両社は2017年から提携し、次世代FCシステムの開発と量産に取り組んできました。今回の決定は、必ずしも両社が燃料電池車(FCEV)開発から完全に撤退することを意味するものではなく、それぞれが独自の戦略に基づいて開発を継続する方針とされています。
この背景には、いくつかの要因が考えられます。一つは、市場の現実です。EV市場が世界的に急速な拡大を見せる一方で、FCEVは水素ステーションといったインフラ整備の遅れなどから、普及ペースが想定よりも緩やかです。このような状況下で、両社が共同事業にかかる巨額の投資を継続するよりも、一度パートナーシップを解消し、それぞれが自社のペースと優先順位で技術開発を進める方が合理的だと判断した可能性があります。技術開発のロードマップは、一度策定したら固定的なものではなく、市場環境や競合の動向に応じて柔軟に見直す必要があることを示唆しています。特に、脱炭素化に向けて多様な技術的選択肢が存在する現在、どの技術にどれだけのリソースを配分するのか、という経営判断の重要性が一層高まっています。
日本の製造業への示唆
今回取り上げた二つの事例は、変化の激しい現代において、製造業が向き合うべき重要な課題を浮き彫りにしています。日本の製造業に携わる我々にとって、以下の三つの視点から実務への示唆を得ることができるでしょう。
1. 事業・製品ポートフォリオの継続的な見直し
テスラの事例が示すように、市場の変化や自社の経営資源を冷静に分析し、時には不採算事業や非効率な製品ラインから撤退するという大胆な意思決定が求められます。自社の製品群が、本当に現在の市場環境と収益構造に適しているのか、定期的に評価し、最適化を図る姿勢が不可欠です。
2. 技術開発ロードマップの柔軟な変更
ホンダ・GMの動きは、長期的な技術開発プロジェクトであっても、外部環境の変化に応じて提携のあり方や投資の優先順位を柔軟に見直す必要性を示しています。特に複数の次世代技術が並行して開発される中、自社の強みを活かせる領域を見極め、リソースを集中させる戦略的な判断が重要となります。
3. サプライチェーン全体への目配り
完成車メーカーのこうした戦略転換は、部品を供給するサプライヤーの生産計画や設備投資に直接的な影響を及ぼします。自社の顧客がどのような製品戦略・技術戦略を志向しているのか、その動向を常に注視し、変化に迅速に対応できるような生産体制や事業計画を構築しておくことが、サプライチェーンにおける自社の競争力を維持する上で極めて重要です。


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