リショアリングはサステナビリティに貢献するか? – 生産拠点見直しの新たな視点

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世界的にサプライチェーンの見直しが進む中、「リショアリング(生産拠点の国内回帰)」が注目されています。その動機はコストや地政学リスクだけでなく、企業の持続可能性、すなわちサステナビリティの観点からも重要性を増しています。

サプライチェーン再編の新たな動機としての「サステナビリティ」

コロナ禍による物流の混乱や、米中対立に代表される地政学リスクの高まりを受け、多くの製造業が生産拠点の見直しを迫られています。かつては人件費の安さを求めて海外に展開した生産体制も、今では供給の安定性やリードタイムの短縮といった観点から、国内回帰(リショアリング)や近隣国への移転(ニアショアリング)が現実的な選択肢として検討されるようになりました。

こうした動きの中で、近年新たな判断基準として浮上しているのが「サステナビリティ」です。企業の環境・社会・ガバナンス(ESG)への取り組みが投資家や顧客から厳しく評価される時代において、生産拠点をどこに置くかは、企業の環境負荷を左右する重要な戦略的意思決定となりつつあります。

リショアリングが環境負荷低減に繋がる仕組み

生産拠点を国内に戻すことが、なぜサステナビリティの向上に繋がるのでしょうか。主に3つの側面から整理することができます。

1. 輸送距離の短縮による排出量削減
最も直接的で分かりやすい効果は、製品輸送に伴うCO2排出量の削減です。アジア等で生産した製品を、消費地である日本や欧米へ長距離の海上・航空輸送を行う場合、多大なエネルギーを消費します。生産拠点を消費地の近くに移すことで、この輸送距離を劇的に短縮でき、サプライチェーン全体のカーボンフットプリント、特にScope 3(自社の直接排出以外の間接的な排出)の削減に大きく貢献します。

2. 生産国のエネルギー事情と環境規制
工場の稼働には大量の電力が必要ですが、その電力がどのように作られているか(エネルギーミックス)は、国や地域によって大きく異なります。例えば、再生可能エネルギーの比率が高い国で生産する方が、化石燃料への依存度が高い国で生産するよりも、製品あたりのCO2排出量を抑えることができます。また、日本や欧米諸国は一般的に環境規制が厳格であり、排水・排気・廃棄物処理の管理水準も高い傾向にあります。規制の厳しい環境下で生産を行うことは、コンプライアンス遵守と環境負荷の適切な管理に繋がり、サプライチェーン全体の透明性を高める上でも有利に働きます。

3. 国内回帰を機とした生産革新
リショアリングは、単に工場を移転するだけでなく、生産プロセスそのものを見直す好機でもあります。国内に新工場を建設、あるいは既存工場を刷新する際には、最新の省エネルギー設備や自動化技術、IoTを活用した生産管理システムなどを導入することが可能です。これにより、エネルギー効率の向上、不良率の低減、資源の有効活用などが進み、生産性向上と環境負荷低減を同時に実現できる可能性があります。これは、日本の製造業が持つ「カイゼン」の文化と最新技術を融合させる絶好の機会と言えるでしょう。

考慮すべき課題と現実的な視点

もちろん、リショアリングは利点ばかりではありません。国内での生産は、海外と比較して人件費が高くなる傾向があります。また、必要なスキルを持つ労働力の確保や、一度空洞化した国内のサプライヤー網の再構築も大きな課題です。単純に生産を戻すだけではコスト競争力を失いかねず、自動化への大規模な初期投資も必要となります。

したがって、全ての生産を一度に国内へ戻すといった極端な判断ではなく、自社の製品ポートフォリオやサプライチェーンのリスク、そしてサステナビリティ目標を総合的に勘案し、戦略的に判断することが求められます。

日本の製造業への示唆

今回の議論は、我々日本の製造業にとっても重要な示唆を与えてくれます。

・サプライチェーン戦略の多角化:
従来の「コスト」一辺倒の拠点評価から、「安定供給」「地政学リスク」「サステナビリティ」といった複数の軸で総合的に評価する視点への転換が不可欠です。サプライチェーンの強靭化と環境対応は、もはやトレードオフの関係ではなく、両立を目指すべき経営課題となっています。

・カーボンフットプリントの具体的把握:
自社製品のカーボンフットプリントを算定する際、生産拠点の「場所」が持つ意味(輸送距離、エネルギーミックス)を具体的に認識し、定量的に評価することが重要になります。これは、顧客や投資家への説明責任を果たす上でも欠かせません。

・国内生産の価値の再評価:
労働力人口の減少という課題はありますが、最新の自動化・省人化技術を前提とすれば、国内生産はコスト面だけでなく、高品質の維持、短納期対応、そして環境ブランドの構築といった点で、新たな競争優位性を生み出す可能性があります。

・段階的・戦略的なアプローチ:
全ての生産を国内に戻すのではなく、例えばマザー工場としての機能を強化し、基幹部品や高付加価値製品の生産を国内に集約する、といった現実的なアプローチが考えられます。自社の事業特性に合わせ、最適な生産拠点のポートフォリオを構築していくことが肝要です。

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