マサチューセッツ工科大学(MIT)発のスタートアップであるVulcanForms社が、独自の金属積層造形技術を核としたデジタル製造プラットフォームの構築に向け、2億2000万ドル(約280億円)という巨額の資金調達を実施しました。これは、金属AM技術が試作の段階を越え、本格的な生産手段として期待されていることを示すものです。
巨額の資金調達が示す、金属AMの事業化への本気度
米国のVulcanForms社が、2億2000万ドルを超える大規模な資金調達を発表しました。同社はMITからスピンアウトした技術系スタートアップであり、独自のレーザー金属積層造形(AM:Additive Manufacturing、いわゆる3Dプリンティング)技術を開発しています。今回の資金調達は、単なる技術開発に留まらず、同社がマサチューセッツ州に設立した2つのデジタル製造拠点(ファウンドリ)の規模を拡大し、本格的な生産体制を構築するために充てられるとのことです。この投資規模は、金属AM技術が研究開発フェーズを終え、実際の製造業における量産手段として、事業的な実用段階に入ってきたことを強く印象付けます。
設計から製造までを統合する「デジタル・ファウンドリ」構想
VulcanForms社が目指しているのは、単に高性能な金属3Dプリンタを製造・販売することではありません。同社は、顧客企業の製品設計からシミュレーション、積層造形による製造、そして後工程である機械加工や熱処理、品質検査までを一気通貫で請け負う「デジタル・ファウンドリ」というビジネスモデルを掲げています。これは、半導体業界におけるTSMCのような製造受託サービスを、金属部品の世界で実現しようとする試みと捉えることができます。設計データさえあれば、物理的な金型や複雑な段取りを必要とせず、デジタルな情報だけで最終製品を製造できる体制は、サプライチェーンのあり方を大きく変える可能性を秘めています。
既存工法への挑戦と、高付加価値分野での実用化
同社は、自社のプラットフォームが、従来の鋳造、鍛造、機械加工といった製造方法と比較して、品質、コスト、リードタイムの面で同等かそれ以上の競争力を持つことを目指しています。特に、航空宇宙、防衛、医療、半導体製造装置といった、極めて高い精度や信頼性が要求され、かつ複雑な形状を持つ部品が多用される分野を主なターゲットとしています。これらの分野では、開発リードタイムの短縮や、軽量化・高機能化のための最適設計(トポロジー最適化など)への要求が強く、設計の自由度が高いAM技術の利点を最大限に活かせると考えられます。日本の製造現場から見れば、全ての部品がすぐにAMに置き換わるわけではないでしょう。しかし、これまで鋳造や複数部品の溶接・組立でしか実現できなかったような複雑形状の部品を、一体で、かつ短期間で製造できる点は、大きな魅力と言えます。
日本の製造業への示唆
今回のVulcanForms社の動きは、日本の製造業に携わる我々にとっても、いくつかの重要な示唆を与えてくれます。
1. 製造サービスという新たな潮流:
自社で高額な最新設備を導入・維持せずとも、外部の専門的な製造サービスを活用するという選択肢が、より現実的なものになりつつあります。これは、自社のコア技術にリソースを集中させつつ、必要な時に必要な技術へアクセスするための、サプライチェーン戦略の新たな一手となり得ます。特に、需要変動の激しい製品や、多品種少量生産においては有効な手段でしょう。
2. デジタル技術による製造プロセスの革新:
設計データから直接製品を製造するAM技術は、金型の設計・製造工程を完全に不要にします。これにより、開発から市場投入までのリードタイムを劇的に短縮できる可能性があります。この「デジタルスレッド(設計から製造までがデジタルデータで一貫して繋がること)」の考え方は、AMに限らず、製造業全体のDX(デジタル・トランスフォーメーション)を考える上で重要な視点です。
3. AM技術の量産適用への再評価:
これまで、金属AMは主に試作品や治具の製作、あるいはごく一部の特殊な最終製品に使われる技術と見なされてきました。しかし、VulcanForms社のような企業の登場は、AMが本格的な量産手段の一つとして確立されつつあることを示しています。自社の製品ポートフォリオや製造工程を見直し、AM技術を適用することでコスト削減や付加価値向上を実現できる部品がないか、改めて検討する価値は大きいでしょう。
4. 設計思想の変革(DFAM)の重要性:
AM技術の真価を発揮するには、従来の切削加工や鋳造を前提とした設計思想から脱却し、積層造形ならではの設計(DFAM: Design for Additive Manufacturing)を取り入れることが不可欠です。部品の一体化による組立工数の削減、軽量化と剛性を両立するラティス構造の採用など、製品そのものの価値を高める設計革新の機会と捉えるべきです。


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