銅価格、高止まりの構造的要因とは?- 資源メジャーのM&A動向から読むサプライチェーンの未来

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EVや再生可能エネルギーの普及を背景に、産業に不可欠な「銅」の需要が世界的に高まっています。しかし、供給側の事情は複雑で、価格は不安定な状況が続いています。本稿では、資源メジャー間のM&Aが難航している現状を読み解き、それが銅のサプライチェーンと価格に与える中長期的な影響について考察します。

脱炭素化が牽引する銅の需要拡大

ご存知の通り、銅は優れた導電性や熱伝導性から、電線や電子基板、モーター、熱交換器など、あらゆる工業製品に不可欠な基幹材料です。特に近年、世界的な脱炭素化の流れが銅の需要を構造的に押し上げています。電気自動車(EV)は従来のガソリン車の数倍の銅を使用し、風力や太陽光といった再生可能エネルギー設備、そしてそれらを繋ぐ送電網の増強にも大量の銅が必要とされます。この需要は一過性のものではなく、今後も継続的に拡大していくと見られています。

容易ではない供給拡大の現実

一方で、需要の増加ペースに供給が追いついていないのが現状です。その背景には、いくつかの根深い課題が存在します。まず、既存の主要な銅鉱山では、長年の採掘により鉱石に含まれる銅の割合(品位)が低下しており、同じ量の銅を生産するためにより多くの鉱石を採掘・処理する必要が生じています。これは生産コストの上昇に直結します。また、新たな優良鉱山の開発は、探査から生産開始まで10年以上を要することも珍しくなく、莫大な投資と時間を必要とします。さらに、資源ナショナリズムの高まりや環境規制の強化も、新規開発や安定生産の足かせとなっています。

難航する業界再編と「供給の断片化」

こうした供給課題を解決する一つの手段として、鉱山会社同士のM&Aによる業界再編が考えられます。企業規模を拡大することで、開発投資の効率化や生産管理の最適化が期待されるからです。しかし、近年、BHPによるアングロ・アメリカンの買収提案が失敗に終わった事例に見られるように、資源メジャー間の巨大合併(メガマージャー)は非常に難しくなっています。その理由として、合併後の新会社が市場で過度な支配力を持つことへの独占禁止法上の懸念や、自国の重要資源が他国の企業の手に渡ることへの各政府の警戒感が挙げられます。結果として、銅の供給市場は少数の巨大企業による寡占状態とはならず、多くのプレイヤーが個別に存在する「断片化(fragmentation)」した状態が継続する可能性が高まっています。

断片化がもたらす長期的な価格上昇圧力

供給市場が断片化されたままであることは、銅価格に大きな影響を与えます。もし市場が数社によって寡占されていれば、需要動向を見据えた計画的な生産調整が行われ、価格は比較的安定するかもしれません。しかし、多くの企業がそれぞれ独立して生産計画を立てる断片化された市場では、業界全体としての一貫した供給管理が難しくなります。各社が個別の判断で動くため、需要の急増に対して供給が機動的に対応できず、品不足に陥りやすい構造が生まれます。これが、銅の価格を中長期的に押し上げる、あるいは高値で不安定な状態を維持させる構造的な要因になると分析されています。

日本の製造業への示唆

今回の分析は、我々日本の製造業にとって重要な示唆を含んでいます。銅は単なる一素材ではなく、サプライチェーン全体、ひいては事業の根幹を揺るがしかねない戦略物資としての側面を強めていると言えるでしょう。以下に、実務レベルで考慮すべき点を整理します。

1. 調達戦略の再構築:
銅価格が中長期的に高止まりすることを前提とした調達戦略が不可欠です。価格変動リスクをヘッジするための先物予約や長期契約の検討、単一のサプライヤーに依存しない調達先の多様化、地政学リスクの低い国からの調達比率を高めるなど、より強靭な調達ポートフォリオを構築することが急務となります。

2. 設計・開発思想の見直し:
製品開発の初期段階から「省銅」を意識した設計思想を取り入れる重要性が増しています。銅の使用量を削減する設計の追求はもちろん、アルミニウムなど代替材料への転換可能性を常に研究・評価していく必要があります。また、使用済み製品からの銅リサイクル技術の高度化や、リサイクル材の活用率向上も重要なテーマとなります。

3. コスト構造の変革と価格転嫁:
原材料費の上昇を吸収し続けることには限界があります。生産工程の自動化や効率化によるコスト削減努力を継続するとともに、素材価格の変動を製品価格に適切に反映させるための顧客との対話や、価格改定の仕組みづくりが経営課題となります。

4. サプライチェーン全体の可視化:
自社が直接購入する銅部材だけでなく、その原料である銅地金が「どの鉱山で採掘され、どの精錬所を経て来たのか」という上流工程までサプライチェーンを可視化し、潜在的なリスクを把握しておくことが、将来の安定供給を確保する上で重要になります。資源業界の動向は、もはや他人事ではなく、自社の事業継続計画(BCP)に直結する経営情報として捉えるべきでしょう。

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