グローバル製薬企業Lupin社に学ぶ、製造エクセレンスと強靭なサプライチェーンの構築

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インドに本拠を置くグローバル製薬企業Lupin社は、世界中に高品質な医薬品を安定供給しています。同社の事業を支えるのは、「卓越した製造(Manufacturing Excellence)」を中核に据えた、品質保証、サプライチェーン、調達、技術サポートが一体となったオペレーション体制です。本稿では、同社の取り組みを紐解き、日本の製造業が学ぶべき点を考察します。

はじめに:グローバルな製造・供給体制

Lupin社は、インド、米国、メキシコ、ブラジルなどに15の製造拠点を持ち、グローバル市場に医薬品を供給しています。その事業の根幹をなすのが「グローバル技術オペレーション」と呼ばれる部門であり、卓越した製造能力、強靭なサプライチェーン、そしてグローバルに連携した調達アプローチの3つを重要な柱として位置づけています。これは、単に製品を製造するだけでなく、原材料の調達から顧客への納品まで、一連のプロセス全体を最適化しようとする強い意志の表れと言えるでしょう。

厳格な品質保証と規制遵守体制

製薬業界において、品質は事業の生命線です。Lupin社は、cGMP (current Good Manufacturing Practice) と呼ばれる最新の適正製造基準に厳格に準拠した品質管理システムを構築しています。特筆すべきは、米国のFDA(食品医薬品局)や英国のMHRA(医薬品・医療製品規制庁)といった、世界で最も厳しいとされる規制当局による査察をクリアし続けている点です。これは、文書化された手順の遵守はもちろん、継続的な改善活動が現場に根付いていなければ達成できません。日本の製造業においても、特に海外展開を目指す企業にとって、グローバル基準の品質保証体制をいかに構築・維持するかは重要な経営課題です。

垂直統合による品質・コスト・供給の管理

同社の特徴の一つに、API(Active Pharmaceutical Ingredients – 原薬)から最終的な製剤までを一貫して製造する「垂直統合」モデルがあります。この体制により、サプライチェーン全体にわたる品質管理を徹底できるだけでなく、コスト構造の最適化や、外部環境の変化に左右されにくい安定供給が可能になります。近年、地政学リスクの高まりからサプライチェーンの寸断が懸念されていますが、このような内製化による管理強化は、事業継続計画(BCP)の観点からも非常に有効な戦略と言えます。もちろん、すべての部品や原材料を内製化することは現実的ではありませんが、自社のコアとなる技術や品質の根幹に関わる部分については、このような垂直統合的な発想が求められる場面もあるでしょう。

データ駆動型のサプライチェーンと戦略的調達

Lupin社のサプライチェーン管理は、グローバルな需要予測、生産計画、在庫管理、そして物流を統合的に管理することで、OTIF(On-Time-In-Full:納期通りに全量を納品)の達成を目指しています。これは、単にモノを運ぶだけでなく、情報をいかに正確かつ迅速に共有し、計画に反映させるかが鍵となります。また、調達活動においては、単なるコスト削減を目的とした買い叩きではなく、主要なサプライヤーとの強固なパートナーシップ構築を重視した戦略的ソーシングを実践しています。信頼できるパートナーとの長期的な関係は、品質の安定化や予期せぬトラブルへの共同対応を可能にし、サプライチェーン全体の強靭性を高める上で不可欠な要素です。

技術と安全を支える組織体制

製造現場の競争力は、日々の生産活動だけでなく、それを支える技術サポート体制によっても左右されます。Lupin社では、専門の技術オペレーションチームが、製品のライフサイクル全体(開発から製造、市場供給まで)にわたり、プロセスの改善、新技術の導入・移管、製造現場でのトラブルシューティングなどを担っています。こうした専門部隊の存在が、現場の安定稼働と継続的な生産性向上を実現しているのです。また、EHS(環境、健康、安全)への強いコミットメントも掲げており、「ゼロアクシデント」を目標とした活動は、日本の製造現場で常に最優先事項とされる安全衛生活動と軌を一にするものです。

日本の製造業への示唆

Lupin社のグローバルオペレーション戦略から、我々日本の製造業が学ぶべき点は多岐にわたります。以下に要点を整理します。

1. グローバル基準の品質保証体制の再点検
国内基準を満たすだけでなく、主要な輸出先の規制や顧客要求を先取りした品質管理体制を構築することが、グローバル市場での信頼獲得につながります。自社の品質システムが、国際的な基準に照らして十分なレベルにあるか、定期的に評価することが重要です。

2. サプライチェーンにおける「内製」と「外部委託」の戦略的判断
Lupin社の垂直統合モデルは、品質・供給の安定化に大きく寄与しています。自社のコア技術や重要部品について、リスク管理の観点から内製化のメリットを再評価し、外部委託との最適なバランスを見極める必要があります。

3. 部門横断でのサプライチェーン全体の最適化
強靭なサプライチェーンは、調達、生産管理、品質保証、物流といった各部門の連携なくしては実現しません。需要予測から納品までの情報を一元管理し、部門間の壁を取り払って迅速な意思決定を促す仕組みづくりが、これまで以上に求められています。

4. 現場を支える技術支援機能の強化
日々の生産に追われる現場任せにするのではなく、Lupin社の技術オペレーションチームのように、中長期的な視点でプロセス改善や技術移転を専門に担う組織や人材を育成することが、持続的な競争力の源泉となります。

業界は異なりますが、高品質な製品をグローバルに安定供給するという使命は共通です。Lupin社の事例は、自社の製造・供給体制を俯瞰的に見直し、次なる一手 を考える上で、貴重な視点を提供してくれるでしょう。

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