英国のファッション業界における生産管理職の求人情報には、現代の製造業の重要な潮流が示されています。本記事では、その中で注目すべき「完全外注生産(Fully Factored Production)」という概念を解説し、日本の製造業におけるサプライチェーン管理と人材育成への示唆を探ります。
はじめに:一つの求人情報が示すもの
先日、英国ロンドンを拠点とするファッションブランドの生産管理マネージャーの求人情報が公開されました。一見すると、海外の一企業の求人に過ぎませんが、その応募要件には、現代のグローバルな製造業、特にサプライチェーンが複雑化する中で、生産管理という職務にどのような能力が求められているかを示す、興味深い記述が見られます。それは「完成品(finished goods)または完全外注生産(fully factored production)のプロセス」における実務経験という一文です。
「完全外注生産」という考え方
「完全外注生産(fully factored production)」とは、自社では製品の企画・設計・マーケティングに特化し、生産工程のすべてを外部の協力工場(サプライヤー)に委託するビジネスモデルを指します。日本の製造業で使われる言葉で言えば、「ファブレス経営」や「OEM/ODM生産の活用」がこれに近い概念と言えるでしょう。特に、トレンドの移り変わりが激しく、製品ライフサイクルが短いファッション業界では、自社で大規模な生産設備を保有するリスクを避け、世界中の最適な生産背景を持つ工場と連携するこの手法が広く採用されています。
このモデルの利点は、設備投資を抑制できることに加え、市場の需要変動に対して柔軟に生産量を調整できる点にあります。一方で、品質の維持、納期の遵守、技術やノウハウの流出防止など、外部パートナーの管理が極めて重要になります。
自社工場を持たない企業の「生産管理」とは
完全外注生産を前提とした場合、生産管理者の役割は、自社工場の生産計画や工程進捗を管理する伝統的な業務とは大きく異なります。その主たる任務は、世界中に点在する複数のサプライヤーが製造する「完成品」の品質・コスト・納期(QCD)を、サプライチェーン全体を俯瞰しながら管理することにあります。
具体的には、以下のような高度なサプライヤーマネジメント能力が求められます。
- サプライヤーの選定と評価(技術力、生産能力、品質保証体制、倫理・環境基準など)
- 発注、価格交渉、納期調整
- 自社の品質基準の伝達と、現地での品質監査の実施
- 生産進捗の遠隔でのモニタリングと、遅延や問題発生時の迅速な対応
- サプライヤーとの良好なパートナーシップの構築と維持
つまり、工場内部の「モノの流れ」を管理する能力以上に、社外のパートナーとの交渉力、調整力、そして異文化コミュニケーション能力といったソフトスキルが成功の鍵を握るのです。
日本の製造業への示唆
この海外の事例は、日本の製造業、特に多くの中小企業にとって重要な示唆を与えてくれます。すべての工程を自社で完結させる「自前主義」は、高い品質を生み出す源泉である一方、経営資源が分散し、変化への対応を遅らせる要因にもなり得ます。自社の真の強み、すなわちコア・コンピタンスは何かを見極め、それ以外の工程については外部の専門企業との連携を戦略的に強化していくことは、持続的な成長のための有効な選択肢です。
その際、今回の求人情報が示すように、生産管理部門や購買部門の役割は、単なる発注業務から、サプライチェーン全体を最適化する戦略的な機能へと進化させていく必要があります。外部パートナーを「下請け」としてではなく、共に価値を創造する「パートナー」として捉え、その能力を最大限に引き出すマネジメントができる人材の育成が、今後の企業の競争力を左右すると言えるでしょう。


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