米国の著名なエンターテイメント企業であるWWE社のインターンシップ募集情報の中に、「生産管理(Production Management)」という職種がありました。一見、製造業とは無関係に思えるこの事例から、我々が改めて学ぶべき生産管理の本質と、その普遍性について考察します。
はじめに:畑違いの「生産管理」
先日、米国のプロレス団体として知られるWWE(World Wrestling Entertainment)社が、「生産管理および事業運営(Production Management & Business Operations)」担当のインターンを募集している情報が目に留まりました。エンターテイメント業界、特にライブイベントやテレビ番組制作の現場における「生産管理」とは、一体何を指すのでしょうか。私たち製造業に身を置く者にとって、この異業種の事例は、自らの業務の本質を捉え直す良い機会を与えてくれます。
エンターテイメントにおける「生産」とは何か
製造業における生産管理が、定められた品質(Q)、コスト(C)、納期(D)の枠内で、効率的に製品を作り出すための活動全般を指すことは言うまでもありません。では、WWEのような企業における「生産」とは何でしょうか。それは、テレビ番組やライブイベントそのものです。つまり、彼らにとっての「製品」は、観客に提供される興奮や感動といった体験価値と言えるでしょう。
この「製品」を生み出すために、彼らの生産管理担当者は、以下のような業務を担うと推察されます。
- スケジュール管理:番組収録やイベント開催に向けた、企画、準備、リハーサル、本番、撤収といった各工程の進捗管理。
- リソース管理:出演者、技術スタッフ、会場、撮影機材、音響・照明設備といった、ヒト・モノ・カネの最適な配分。
- 予算管理:制作に関わるあらゆる費用の見積もりと実績管理。
- プロセス連携:脚本家、演出家、美術、マーケティング部門など、多岐にわたる関係者間の調整と情報共有。
これらは、私たちが工場で日常的に行っている生産計画、工程管理、人員配置、原価管理、部門間調整と、その本質において何ら変わりがありません。管理対象が自動車部品や電子機器ではなく、「ショー」という無形のものであるという違いだけです。QCDを達成し、顧客(観客)に満足を提供するという目的は完全に一致しています。
「事業運営」との一体化が示すこと
この求人情報で興味深いのは、「生産管理」が「事業運営(Business Operations)」とセットになっている点です。これは、制作現場の管理が、単なる現場仕事に留まらないことを示唆しています。つまり、制作プロセスそのものを事業全体の視点から最適化し、収益性や効率性を高める役割が期待されているのです。
日本の製造現場でも、長らく「現場は現場、経営は経営」という分断が見られることがありました。しかし、今日の厳しい事業環境においては、生産現場のリーダーや技術者も、自らの業務が会社の損益にどう影響するのか、事業戦略の中でどのような位置づけにあるのかを理解することが不可欠です。生産の効率化が、単なるコスト削減ではなく、企業の競争力強化やキャッシュフロー改善にどう繋がるのか、という経営的な視点を持つことが、現場の価値をさらに高めることになります。
日本の製造業への示唆
この一見風変わりな求人情報から、私たちは以下の様な実務的な示唆を得ることができます。
1. 生産管理の原理原則の再確認
管理対象が何であれ、QCDを満たすためにリソースを最適配分するという生産管理の基本は普遍的です。自社の業務を「当たり前」と捉えず、「もし対象が全く違うものだったら、どう管理するか?」という視点で考えてみることで、既存プロセスの改善のヒントが見つかるかもしれません。
2. 現場と経営の視点の融合
生産現場の改善活動が、経営指標にどのようなインパクトを与えるのかを常に意識することが重要です。工場長や現場リーダーは、部下に対して改善の目的をコストや納期だけでなく、事業上の意義と結びつけて説明することで、従業員の当事者意識を高めることができます。
3. 「生産」の概念の拡張
製造業の強みである生産管理や品質管理の手法は、研究開発、営業、管理部門といった間接業務にも応用可能です。あらゆる業務を「インプットをアウトプットに変換するプロセス」と捉え、その効率化や標準化を図ることは、全社的な生産性向上に繋がります。異業種の事例は、その発想を後押ししてくれる好例と言えるでしょう。


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