産業オートメーション大手のRockwell Automation社でCDIO(最高デジタル・情報責任者)を務めるクリス・ナルデキア氏が、製造業のレジリエンス(強靭性)向上におけるITとAIの役割について語りました。本稿では、その内容を紐解きながら、日本の製造業が実務で活かすべき視点を解説します。
ITとOTの融合がレジリエンスの基盤となる
現代の製造業が直面するサプライチェーンの混乱や市場の急激な変動、そしてサイバー攻撃といった脅威に対処するためには、事業全体の「レジリエンス(回復力・強靭性)」を高めることが不可欠です。ナルデキア氏は、その基盤となるのがIT(情報技術)とOT(Operational Technology、制御・運用技術)の融合であると指摘しています。これまで別々に管理されることの多かったオフィス(IT)と工場(OT)のシステムやデータを連携させることで、リアルタイムな状況把握と、データに基づいた迅速な意思決定が可能になります。
日本の製造現場においても、IT部門と製造部門の間に組織的な壁が存在するケースは少なくありません。しかし、工場内のセンサーデータや生産実績といったOTデータを、販売データや在庫情報などのITデータと統合して初めて、生産計画の最適化やサプライチェーン全体のリスク予見といった高度な打ち手が可能となります。これは単なる技術的な課題ではなく、組織文化や部門間の連携体制を見直す経営課題として捉えるべきでしょう。
AIは課題解決のための現実的なツール
AI(人工知能)の活用も、製造業の競争力を左右する重要な要素です。しかし、ナルデキア氏の議論は、AIを単なる流行としてではなく、具体的な課題を解決するための現実的なツールとして捉える点に重きを置いています。例えば、設備の故障を予知する「予知保全」、画像認識による「品質検査の自動化」、あるいは複雑な変数に対応する「生産スケジュールの最適化」など、AIの適用領域は多岐にわたります。
重要なのは、AI導入の目的を明確にすることです。どの工程の、どのような課題を解決したいのか。そのために必要なデータは何か。日本の製造業が得意としてきた現場の知見やノウハウを、AIというツールとどう組み合わせるかが成功の鍵となります。質の高いデータを継続的に収集・整備する地道な取り組みと、それを扱える人材の育成が、AI活用の前提条件であることは改めて認識しておく必要があります。
OT領域に広がるサイバーセキュリティの脅威
工場がネットワークに接続され、スマートファクトリー化が進むことは、生産性向上に大きく寄与する一方で、新たなリスクも生み出します。それがOT領域におけるサイバーセキュリティの脅威です。ナルデキア氏は、製造業のレジリエンスを考える上で、このOTセキュリティ対策が不可欠であると強調しています。
OTシステムは、24時間365日の安定稼働が最優先されるため、ITシステムのように頻繁にパッチを適用したり、システムを停止したりすることが困難です。また、長期間にわたって使用されている古い設備がネットワークに接続されるケースも多く、セキュリティ上の脆弱性を抱えやすくなります。工場の安全操業を守ることは、物理的な安全対策だけでなく、サイバー空間からの脅威への備えと一体で考えなければならない時代になっています。
日本の製造業への示唆
今回のRockwell Automation社CDIOの発言は、日本の製造業にとっても多くの実務的な示唆を含んでいます。以下に要点を整理します。
・IT/OTの連携は経営課題として推進する:
部門間の壁を取り払い、全社的なデータ活用基盤を構築することが、変化に対応できる強靭な企業体質の基礎となります。経営層がリーダーシップを発揮し、組織横断的なプロジェクトとして推進することが求められます。
・AIは目的志向で、地に足の着いた活用を:
自社の強みや課題を深く理解した上で、AIを「課題解決の手段」として位置づけることが重要です。まずは特定の工程や設備を対象としたスモールスタートから始め、成功体験を積み重ねていくアプローチが現実的でしょう。
・OTセキュリティを「自分ごと」として捉える:
スマートファクトリー化の裏側にあるリスクを正しく認識し、対策を講じる必要があります。IT部門任せにせず、製造部門も主体的に関わり、自社の生産ラインを守るための投資と体制構築を検討すべきです。
・データ活用の文化を醸成する:
最先端の技術を導入しても、それを使いこなす「人」と「文化」がなければ宝の持ち腐れとなります。現場の担当者から経営層まで、誰もがデータに基づいて会話し、意思決定を行う文化を育てていくことが、DXの本質と言えるでしょう。


コメント