2018年に米国が発動した鉄鋼・アルミニウムへの追加関税は、カナダの製造業に大きな影響を及ぼしました。しかし、最新の研究によると、その影響は一様ではなく、特に移民労働者が不釣り合いに大きな打撃を受けていた実態が明らかになりました。この事例は、グローバルなサプライチェーンと多様な人材で成り立つ現代の製造業にとって、重要な示唆を与えています。
背景:米国の鉄鋼・アルミニウム関税とカナダへの影響
2018年、当時の米国トランプ政権は、国家安全保障を理由に鉄鋼製品に25%、アルミニウム製品に10%の追加関税を課す措置を発動しました。この措置は、最大の貿易相手国であるカナダも対象となり、同国の基幹産業である製造業、特に鉄鋼・アルミニウム関連分野に大きな混乱をもたらしました。輸出の停滞や生産計画の見直しは避けられず、その影響は国内の労働市場にも及ぶことが懸念されていました。
労働市場への不均一な影響:移民労働者が受けた打撃
カナダの研究機関による最近の分析は、この関税措置が労働市場に与えた影響が、労働者の出自によって大きく異なっていたことを明らかにしました。具体的には、関税の影響を直接受けた産業において、カナダ生まれの労働者の雇用はほとんど影響を受けなかった、あるいは微増したのに対し、移民労働者、特にカナダに来て間もない新規の移民労働者の雇用は、著しく減少する傾向が見られました。
これは、経済的な外部ショックが発生した際に、その打撃を誰が最も強く受けるのかという、根深い構造的な問題を示唆しています。研究では、移民労働者が言語の壁、海外で取得した資格がカナダ国内で認定されにくい問題、あるいは頼れる社会的ネットワークが弱いことなどから、相対的に不安定な雇用に就かざるを得ないケースが多いと指摘されています。結果として、彼らは景気後退や今回のような貿易摩擦の際に、最初に人員整理の対象となる「調整弁」のような役割を担わされてしまう現実が浮き彫りになりました。
現場の視点から見る課題
この分析結果は、遠い国の話として片付けられるものではありません。日本の製造業においても、人手不足を背景に外国人材への期待と依存は年々高まっています。多様な背景を持つ従業員が共に働く現場が増える中で、経営層や管理職は、こうした労働市場の構造的な脆弱性に目を向ける必要があります。
経済環境が悪化した場合、あるいは特定の国との関係性からサプライチェーンに急な変更が求められた場合、立場の弱い労働者から先にしわ寄せが及ぶという構図は、どの国でも起こり得ます。これは単なる人道上の問題に留まりません。熟練技能の喪失、現場の士気低下、そして企業の社会的評価の低下といった、経営上のリスクにも直結する重要な課題と言えるでしょう。
日本の製造業への示唆
今回のカナダの事例から、日本の製造業が学ぶべき点は多岐にわたります。以下に要点を整理します。
1. 地政学リスクとサプライチェーンの再評価
保護主義的な貿易政策は、予測が困難な形で突如として発動され、サプライチェーンに深刻な影響を与えます。特定の国や地域への過度な依存がもたらすリスクを再認識し、平時から供給網の複線化や代替調達先の確保といった強靭化策を検討しておくことの重要性が改めて示されました。
2. 労働力の多様化に伴う潜在的リスクの認識
外国人材の活用は、人手不足解消の有効な手段ですが、同時に新たな経営課題を生む可能性も認識すべきです。経済ショックが発生した際に、特定の属性を持つ従業員に不利益が集中しないか、自社の雇用慣行や人事制度を点検することが求められます。これは、企業の持続可能性や社会的責任(CSR)の観点からも極めて重要です。
3. 経営層・管理職に求められる包摂的な視点
安定した工場運営と持続的な成長のためには、国籍や経歴に関わらず、すべての従業員が安心して働ける環境を構築することが不可欠です。外部環境の急変が従業員に与える影響を多角的に予測し、特に経済的・社会的に脆弱な立場に置かれやすい従業員への配慮を怠らないことが、長期的な組織の安定と競争力に繋がります。公平な評価制度やキャリア支援、コミュニケーションの活性化といった地道な取り組みが、有事の際の組織の耐性を高めることでしょう。


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