アフリカ南部のエスワティニ王国で、高校生を対象としたユニークな映画制作コンペティションが開催されました。この取り組みは単なる文化活動に留まらず、予算管理や「生産管理」のスキルを実践的に学ぶ貴重な機会となっており、日本の製造業における人材育成を考える上で興味深い示唆を与えてくれます。
エスワティニにおける異色の教育プログラム
先日、エスワティニ通信委員会(ESCCOM)が主催する高校生向けの映画制作コンペティションが発表されました。このコンペティションの特徴は、参加チームに10,000エマランゲニ(日本円で約8万円相当)の予算が与えられ、その範囲内で10分間の映画を制作するという点にあります。記事では、このプロセスを通じて学生たちが「生産管理(production management)」と予算管理を学ぶことが強調されています。
映画の世界で言う「プロダクション・マネジメント」は、一般的に「製作管理」と訳され、脚本から撮影、編集に至るまでの全工程を、予算・スケジュール・品質の観点から管理する役割を指します。これは、私たち製造業における生産管理、すなわち、決められた予算(コスト)と納期の中で、要求される品質の製品を効率的に作り上げる活動と、その本質において極めて類似しています。
プロジェクトマネジメントとしての映画制作
映画制作を製造業の視点で分解してみると、生産管理との共通点がより明確になります。
まず、テーマに基づいた脚本や撮影計画を立てる「企画・プリプロダクション」段階は、製品の仕様決定や工程設計に相当します。次に、俳優やスタッフ、機材、ロケ地などを手配するプロセスは、まさしく人員計画、設備手配、原材料の調達といったリソース管理そのものです。
そして、撮影から編集までの「プロダクション・ポストプロダクション」段階では、限られた時間の中で計画通りに作業を進める進捗管理と、監督の意図する映像を具現化する品質管理が求められます。これらすべての活動を、与えられた予算内で完遂させなければならないという制約は、製造現場における原価管理の重要性と何ら変わりありません。
このように、クリエイティブな活動の側面が強い映画制作も、実際には極めて論理的で体系的なプロジェクトマネジメントであり、生産管理の縮図と捉えることができるのです。
若手人材育成への応用
このエスワティニの事例は、日本の製造業における若手人材の育成方法を再考するきっかけを与えてくれます。従来の座学研修や、特定の工程のみを担当するOJT(On-the-Job Training)も重要ですが、それだけでは全体を俯瞰する視点や、コスト意識、プロジェクト完遂能力といった複合的なスキルは育ちにくい側面があります。
若手の技術者や現場リーダー候補に対し、例えば小規模な改善活動や治具の設計・製作といったテーマで、企画から設計、部品調達、製作、評価までの一連のプロセスを、少額でも予算と共に一任してみる。こうした経験は、単一の作業スキルを習得する以上に、各要素(Q・C・D)のトレードオフを肌で感じ、制約の中で最善の解を導き出す実践的なマネジメント能力を養う上で、非常に価値あるものとなるでしょう。
目的は、完璧な成果物を求めること以上に、プロジェクト全体を自分事として捉え、完遂させる経験そのものにあります。失敗も含めて、そのプロセスから得られる学びは、将来のより大きなプロジェクトを担う上での確かな礎となるはずです。
日本の製造業への示唆
今回のエスワティニの事例から、日本の製造業が学ぶべき要点と実務への示唆を以下に整理します。
1. 実践的プロジェクトを通じた全体観の醸成
一つのプロジェクトを川上から川下まで一貫して担当させることで、個別の業務が全体のどの部分を担い、他の要素(コスト、納期、品質)とどう関連しているのかを体感的に理解させることができます。これは、部分最適に陥りがちな若手社員に、全体最適の視点を養わせる上で極めて有効です。
2. 予算管理意識の早期育成
与えられた予算内で成果を出す経験は、コスト意識を現場レベルで根付かせるための優れた訓練となります。単に「コストを下げろ」と指示するのではなく、自ら予算を管理し、工夫する機会を与えることで、当事者意識を持ったコスト管理能力が育まれます。
3. 異分野からの学びと応用
製造業とは直接関係のない分野の取り組みであっても、その本質を紐解くことで、自社の課題解決や人材育成に関する普遍的なヒントを得ることができます。固定観念に囚われず、広い視野で情報を収集し、自社の文脈に合わせて応用する姿勢が、これからの時代には一層重要になるでしょう。
実務においては、まず若手社員に小規模な改善プロジェクトなどを予算も含めて一任する機会を設けることから始めるのが現実的です。その経験を通じて、生産管理やプロジェクトマネジメントの面白さと難しさを学ばせることが、次代を担う人材を育てるための重要な一歩となるのではないでしょうか。


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