遠く離れたジャマイカの経済復興に関する記事の中に、我々日本の製造業にとって示唆に富む一文がありました。それは、文化・観光分野への人材移行先として「生産管理」が挙げられていた点です。本稿ではこの事例から、製造業における人材獲得と育成の新たな可能性について考察します。
異業種で求められる「生産管理」のスキル
先日公開されたジャマイカの経済復興に関する記事では、文化・観光産業を担う人材を育成するため、「的を絞った再訓練」が重要であると述べられています。その中で、再訓練後のキャリアパスとして、祭りの運営や工芸、文化観光などと並んで「生産管理(production management)」が挙げられていたことは、非常に興味深い点です。
一見すると、文化イベントや観光と、工場のものづくりは全く異なる分野に見えるかもしれません。しかし、目標(例えば、イベントの成功や工芸品の完成)を設定し、必要な資源(人、モノ、時間)を計画し、プロセスを管理し、品質を担保しながら納期通りにアウトプットを出すという点において、その本質は共通しています。これはまさに、我々製造業が日々実践している生産管理の考え方そのものです。この事例は、生産管理というスキルセットが、製造業の枠を超えて応用可能な、普遍的な価値を持つことを示唆しています。
人材獲得の視野を広げる
日本の製造業は、ご存知の通り、多くの現場で人手不足や後継者問題という深刻な課題に直面しています。採用活動においても、製造業経験者という限られたパイの中での獲得競争が激化しているのが実情です。しかし、今回のジャマイカの事例は、我々に新たな視点を与えてくれます。
それは、採用の対象を必ずしも製造業経験者に限定する必要はない、ということです。例えば、飲食業や小売業、イベント業界などで店長やリーダーとして、スタッフのシフト管理、資材の発注、日々のオペレーション改善といった経験を積んできた人材は、生産管理の素養を十分に備えている可能性があります。彼らは、製造に関する専門知識は持たないかもしれませんが、人を動かし、物事を計画通りに進め、予期せぬ問題に対応する能力を実務で培っています。こうした「ポータブルスキル(持ち運び可能なスキル)」に着目することで、採用の門戸を大きく広げることができるのではないでしょうか。
「的を絞った再訓練」の重要性
もちろん、異業種から人材を受け入れるには、ただ現場に配置するだけでは不十分です。ここで重要になるのが、元記事にもあった「的を絞った再訓練(Targeted Retraining)」、すなわちリスキリングです。
受け入れた人材に対し、製造業の基礎となる安全衛生や品質管理(5S、なぜなぜ分析など)の考え方を体系的に教育する必要があります。その上で、自社の製品や製造工程に関する専門知識、使用する設備やシステムの操作方法など、実務に直結するスキルをOJTとOff-JTを組み合わせて計画的に習得させるプログラムが不可欠です。重要なのは、彼らが既に持つ管理能力や対人スキルを尊重し、それを活かしながら、製造現場特有の知識と技術を上乗せしていくという育成思想です。これは、単なる新人教育ではなく、個々の強みを活かすための戦略的な投資と捉えるべきでしょう。
日本の製造業への示唆
今回の記事から、我々日本の製造業は以下の点を改めて認識し、実務に活かすことができると考えられます。
- 人材の多様性の受容: 採用の視野を製造業経験者に限定せず、他業種で培われた計画遂行能力や管理能力を持つ人材にも門戸を開くことで、人手不足という課題への新たな活路が見出せる可能性があります。
- ポータブルスキルの再評価: 生産管理の本質は、業界特有の知識だけでなく、計画、段取り、進捗管理、改善といった普遍的なスキルセットにあります。面接などの採用過程において、こうした潜在的な能力を見抜く視点がより重要になります。
- 戦略的な育成プログラムの設計: 異業種からの人材を効果的に戦力化するためには、彼らの持つ強みを活かしつつ、製造業特有の知識・スキルを補うための「的を絞った」再訓練プログラムの設計と実行が不可欠です。これは、既存の従業員の多能工化やDX化推進にも応用できる考え方です。
- 「生産管理」という強みの再認識: 日本の製造業が長年培ってきた生産管理のノウハウは、他産業にも通用する強力な経営資源です。この強みを自社のアイデンティティとして再認識し、人材育成の根幹に据えることが、企業の競争力維持に繋がります。


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