大手家電メーカーであるGEアプライアンスでは、3D測定データを一元管理し、製造エンジニアが容易にアクセスできる環境を構築しました。この取り組みは、データに基づいた迅速な意思決定を可能にし、品質向上と生産性改善に大きく貢献しています。本稿ではこの事例を基に、日本の製造業が学ぶべきデータ活用の要諦を解説します。
背景:サイロ化する測定データという共通課題
今日の製造現場では、3Dスキャナや三次元測定機が広く活用され、製品や金型、治工具の精密な寸法データが日々取得されています。しかし、これらのデータは測定担当者のPCや特定の部署のサーバー内に保管され、組織全体で十分に活用されていないケースが少なくありません。必要な時にデータを探し出せなかったり、他部署の担当者に都度依頼する必要があったりと、データが「サイロ化」し、属人化しているのが実情です。
このような状況は、問題発生時の原因究明の遅れや、部門間の連携不足による手戻りの発生など、様々な非効率を生む原因となります。設計データ(CAD)と実測値の比較検討が迅速に行えなければ、勘や経験に頼った判断にならざるを得ず、データドリブンな改善活動の妨げとなっていました。
GEアプライアンスの取り組み:誰もがアクセスできるデータ基盤の構築
GEアプライアンスでは、この課題を解決するため、製品のCADデータと3D測定データを一元的に管理するプラットフォームを導入しました。このプラットフォームの特長は、ウェブブラウザを通じて、権限を持つエンジニアなら誰でも、いつでも必要なデータにアクセスできる点にあります。
製造エンジニアは、自席のPCから直接、特定の部品の3Dスキャンデータと設計CADデータを重ね合わせ、寸法公差からの逸脱箇所を色分け(カラーマップ)で直感的に確認できます。これにより、従来は測定の専門家でなければ難しかった高度なデータ解析が、現場のエンジニア自身の手で簡単に行えるようになりました。データへのアクセス性が飛躍的に向上したことで、エンジニアは自律的に問題を発見し、解決策を検討できるようになったのです。
データ活用がもたらす意思決定の迅速化と高度化
データの一元化と可視化は、具体的な業務プロセスに大きな変化をもたらしました。例えば、ある部品に不具合が疑われる場合、担当エンジニアはすぐに最新の測定データを参照し、設計値との差異を定量的に評価できます。サプライヤーから納品された部品の受け入れ検査においても、複数ロットのデータを時系列で比較し、品質のばらつきや傾向を早期に把握することが可能です。
以前であれば、現物を取り寄せて再測定を行ったり、関連部署間で何度も会議を重ねたりしていたような場面でも、共有された客観的なデータに基づいて議論を進めることができます。これにより、金型修正や工程変更といった意思決定のスピードと精度が大幅に向上し、開発期間の短縮や品質の安定化に繋がっていると言えるでしょう。
日本の製造業への示唆
GEアプライアンスの事例は、DX(デジタルトランスフォーメーション)の本質が、単なるツールの導入ではなく、データ活用を前提とした業務プロセスの再構築と組織文化の変革にあることを示唆しています。以下に、日本の製造業がこの事例から学ぶべき点を整理します。
1. 測定データの「資産化」という視点
3D測定データを、単なる検査記録として捉えるのではなく、設計、生産技術、品質保証、さらにはサプライヤー管理に至るまで、バリューチェーン全体で活用可能な「知的資産」と位置づけることが重要です。データを蓄積し、いつでも引き出せる状態にしておくことで、将来の製品開発や工程改善に活かすことができます。
2. 部門横断的なデータ共有基盤の重要性
設計、生産、品質といった部門間の壁を越えて、誰もが同じデータを見て議論できる環境を構築することが不可欠です。これにより、組織全体の課題解決能力が向上します。特に、熟練技術者が持つ暗黙知を、3Dデータという客観的な形式知に変換し、組織全体で共有・伝承していく上でも有効な手段となり得ます。
3. データ起点の現場改善文化の醸成
エンジニアや現場リーダーが、自らデータにアクセスし、分析・考察する文化を育てることが、現場の自律的な改善力を高めます。経営層や管理職は、こうした活動を推奨し、必要なツールや教育の機会を提供していく責務があります。
4. スモールスタートからの展開
最初から全社規模での導入を目指すのではなく、まずは特定の製品ラインや課題を抱える工程に絞って試験的に導入し、成功体験を積み重ねながら横展開していくアプローチが現実的です。クラウドベースのサービスも増えており、以前に比べて比較的小さな投資で始められる環境が整いつつあります。
3D測定データの活用は、もはや一部の先進的な企業だけのものではありません。自社の製造プロセスの中に眠るデータの価値を再認識し、それを組織の力に変えていく取り組みが、今後の競争力を左右する重要な鍵となるでしょう。


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