インド、2024年予算案に見る製造業強化への本気度 – 半導体分野への継続投資が意味するもの

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インド政府が発表した2024年予算案では、引き続き製造業、特にエレクトロニクスと半導体分野への重点的な投資が示されました。この動きは、インドをグローバルな生産拠点へと押し上げる国家戦略の一環であり、日本の製造業にとっても無視できない潮流となりつつあります。

インドの国家戦略としての製造業振興

ロイター通信の報道によると、インド政府は2024年度の暫定予算案において、経済成長を持続させるための重要な柱として、製造業への投資を継続する方針を明確にしました。特に注目されるのは、エレクトロニクス製造と半導体分野への継続的な注力です。これは単なる一時的な政策ではなく、インドを「世界の工場」として、グローバルなサプライチェーンにおける中心的な存在へと引き上げようとする、長期的かつ構造的な国家戦略の表れと見てよいでしょう。

多くの日本企業が経験してきたように、これまでアジアの生産拠点といえば中国が中心でした。しかし、米中間の対立や地政学リスクの高まりを受け、サプライチェーンの多様化、いわゆる「チャイナ・プラスワン」の動きが加速しています。インド政府は、この世界的な潮流を好機と捉え、生産拠点としての魅力を高めるための政策を積極的に打ち出しているのです。

なぜエレクトロニクスと半導体なのか

インドが数ある製造業の中でも、特にエレクトロニクスと半導体に力を入れる背景には、いくつかの戦略的な狙いがあります。第一に、これらの分野は現代の産業の根幹をなすものであり、自国での生産能力を持つことが経済安全保障上、極めて重要であるという認識です。サプライチェーンの脆弱性が世界的な課題となる中で、基幹部品を国内で調達できる体制は大きな強みとなります。

第二に、付加価値の高さが挙げられます。単なる組み立て工程だけでなく、より高度な技術を要する半導体製造などを国内に誘致することで、産業構造の高度化と、それに伴う雇用の質の向上を目指しています。巨大な人口を抱えるインドにとって、良質な雇用を創出することは喫緊の課題です。

我々日本の製造業の視点から見れば、インドのこの動きは、新たな事業機会の可能性を示唆しています。例えば、日本企業が強みを持つ半導体製造装置や高純度化学材料、精密加工技術などは、インドの産業育成において重要な役割を果たせる可能性があります。ただし、現地での生産を軌道に乗せるには、電力や水といったインフラの安定供給、そして何よりも高度な技術を扱える人材の育成が不可欠であり、これらの課題をどう乗り越えるかが鍵となります。

日本の製造業にとっての機会と課題

インドの製造業振興策は、日本企業にとって大きな機会となり得ます。14億人を超える巨大な国内市場は、消費財から生産財まで、あらゆる製品にとって魅力的です。また、生産拠点を多様化する上で、インドは地理的・政治的にも有力な候補地の一つです。インド政府が導入しているPLIスキーム(生産連動型優遇策)のようなインセンティブをうまく活用できれば、投資コストを抑えつつ、新たな拠点を構築することも可能でしょう。

一方で、現場の実務レベルでは乗り越えるべき課題も少なくありません。物流インフラの未整備や電力供給の不安定さは、安定した工場運営の阻害要因となり得ます。また、複雑な州ごとの法規制や税制への対応、さらには日本とは異なる労働慣行や品質に対する考え方への適応も求められます。単に日本式のやり方を持ち込むだけでは、現場の混乱を招きかねません。現地の文化を尊重し、粘り強く対話を重ねながら、品質管理の仕組みを構築していく地道な努力が不可欠です。

日本の製造業への示唆

今回のインドの予算案が示す方向性は、日本の製造業にとって重要な示唆を含んでいます。以下に要点を整理します。

1. グローバル戦略におけるインドの位置づけ再評価:
インドはもはや単なる「チャイナ・プラスワン」の候補地の一つではなく、国家として明確な意志を持って製造業のハブを目指しています。経営層は、自社の中長期的なサプライチェーン戦略や市場戦略の中で、インドをどう位置づけるか、本格的に検討すべき時期に来ています。情報収集や現地調査を、これまで以上に具体的に進める必要があります。

2. 現地適合型の生産体制の構築:
工場長や生産技術者は、インドで生産を行う場合、現地のインフラや労働力の特性を前提とした生産方式を考える必要があります。日本の最新鋭の自動化設備をそのまま持ち込むのではなく、現地の状況に合わせて人と機械の最適な役割分担を設計するような、柔軟な発想が求められます。品質とコスト、そして安定稼働のバランスをどう取るかが腕の見せ所となるでしょう。

3. 品質文化の醸成と人材育成への投資:
日本品質を現地で実現することは、最も困難かつ重要な課題です。品質管理部門や現場リーダーは、単に手順書を翻訳して渡すだけでなく、なぜその作業が必要なのか、品質が顧客や自社にとってどのような価値を持つのかを、現地の従業員に粘り強く伝え、共感を育む活動が不可欠です。これは設備投資以上に時間と労力がかかる、息の長い取り組みとなります。

インドの動向は、我々日本の製造業にとって挑戦であると同時に、新たな成長の機会でもあります。表面的な情報に一喜一憂することなく、現地の現実を直視し、長期的な視点で冷静に戦略を練ることが、今まさに求められていると言えるでしょう。

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