米国で進む『許認可DX』:製造業の設備投資を加速させる政府の新たな一手

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米国政府が、工場建設やインフラ整備に関わる複雑な許認可プロセスを、デジタル技術を用いて効率化する試みを本格化させています。この動きは、サプライチェーン強靭化や国内製造業の回帰を目指す米国の政策と連動しており、グローバルに事業展開する日本の製造業にとっても重要な示唆を含んでいます。

背景:複雑な許認可が設備投資の足かせに

大規模な工場やインフラを建設する際、環境影響評価や安全基準など、複数の省庁や機関が関わる複雑な許認可(Permitting)プロセスを経る必要があります。これは米国も日本も同様ですが、米国では特にそのプロセスの煩雑さと長期化が、国内の設備投資を阻害する大きな要因としてかねてより問題視されていました。

書類の提出や審査が機関ごとに縦割りで行われ、全体の進捗が見えにくい。一つの修正が他の審査に影響し、大幅な手戻りが発生する。こうした非効率性が、半導体法(CHIPS Act)やインフレ削減法(IRA)といった大型の産業政策によって喚起されるべき民間投資のスピードを削いでしまう、という危機感が政府・産業界双方で高まっていました。

ホワイトハウス主導の『許認可改革パイロットプログラム』

この課題に対し、米ホワイトハウスの環境品質評議会(CEQ)は、連邦政府の許認可プロセスを近代化するための行動計画を打ち出し、その一環としてパイロットプログラムを開始しました。この改革の核となるのは、デジタル技術の活用です。

具体的には、以下のような取り組みが進められています。

・オンラインポータルの構築: 申請から承認までの全プロセスをオンラインで追跡・管理できる共通プラットフォームを構築します。これにより、申請企業と関係省庁はリアルタイムで進捗状況を共有でき、プロセスの透明性が格段に向上します。

・データの標準化と共有: 各省庁が求めるデータを標準化し、機関間でスムーズに共有できる仕組みを整えます。これにより、同じような情報を何度も提出する手間が省け、審査の迅速化が期待されます。

・プロセスの同期化: これまで個別に進んでいた複数の許認可プロセスを、可能な限り同時並行で進めることを目指します。プロジェクトの初期段階から関係機関が連携することで、手戻りを防ぎ、全体のリードタイムを短縮する狙いです。

これは、いわば行政手続きのデジタルトランスフォーメーション(DX)であり、これまでブラックボックス化しがちだった許認可プロセスを、データに基づき可視化・効率化しようという試みです。

製造業の期待と競争環境の変化

全米製造業者協会(NAM)をはじめとする米国の産業界は、この改革を強く支持しています。彼らにとって、許認可プロセスの効率化は、工場の新設や増設、サプライチェーンの国内回帰を迅速に進めるための生命線だからです。

設備投資の意思決定から工場稼働までの時間が短縮されれば、それだけ早く市場の需要に応えることができ、国際競争における優位性を確保しやすくなります。特に、技術革新の速い半導体やEV関連分野では、この「スピード」が事業の成否を分ける重要な要素となります。

日本の製造業への示唆

今回の米国の動きは、対岸の火事ではありません。日本の製造業にとっても、いくつかの重要な示唆を読み取ることができます。

1. グローバルな行政手続きのデジタル化潮流
米国の取り組みは、行政プロセスのDXが国の産業競争力に直結するという認識が世界的に広まっていることを示しています。今後、海外で工場建設や事業展開を計画する際には、進出先の国や地域の許認可プロセスのデジタル化対応状況が、プロジェクトの成否を左右する新たな評価軸となる可能性があります。

2. サプライチェーン再編における「時間」という資源
地政学リスクの高まりを受け、多くの企業がサプライチェーンの見直しを迫られています。その中で、許認可の迅速さは、生産拠点の立地選定において、税制優遇や労働コストと並ぶ重要な比較項目になり得ます。米国のこの改革は、国内投資を誘致し、サプライチェーンを迅速に再構築するための強力な武器となるでしょう。

3. 日本国内の課題への視座
翻って日本国内を見ても、工場の新増設や再生可能エネルギー施設の導入において、行政手続きの煩雑さが課題となる場面は少なくありません。米国の先進的な事例は、わが国の行政プロセス改革を考える上で貴重な参考となります。企業としても、自社の設備投資計画における許認可プロセスを精査し、行政機関との連携を密にするとともに、業界団体などを通じてプロセスの効率化を働きかけていく視点も、今後はより重要になるかもしれません。

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