タイの食品大手CPF社は、大規模養鶏場から排出される鶏糞をバイオガス発電に利用し、エネルギー創出と環境負荷低減を両立させています。この先進的な取り組みは、日本の製造業が直面する廃棄物処理、エネルギーコスト、そしてサステナビリティという課題に対し、実践的な示唆を与えてくれます。
概要:養鶏場の廃棄物を価値ある資源へ
タイの食品・農業コングロマリットであるチャルーン・ポーカパン・フーズ(CPF)社は、チャンタブリー県にある大規模な鶏卵生産施設において、廃棄物である鶏糞をエネルギー源として活用する「Waste to Energy」の取り組みを推進しています。この施設では、約370万羽の採卵鶏が飼育されており、そこから日々排出される大量の鶏糞が、施設の電力を賄う貴重な資源へと転換されています。これは、廃棄物をコストとして捉えるのではなく、価値ある資源として再利用する循環型経済(サーキュラーエコノミー)の優れた実践例と言えるでしょう。
具体的なプロセスと多面的な効果
CPF社の取り組みは、非常に合理的かつ体系的に構築されています。まず、衛生管理された密閉式の鶏舎から、ベルトコンベアを用いて鶏糞を自動的に収集します。これにより、臭気の拡散を防ぎ、作業の効率化も図られています。収集された鶏糞は発酵槽へ送られ、嫌気性発酵によってメタンガスを主成分とするバイオガスが生成されます。このバイオガスを燃料として発電機を稼働させ、施設全体の電力需要の約20%を賄っているとのことです。さらに、発酵プロセス後に残る残渣は、栄養価の高い有機肥料として地域の農家へ販売され、新たな収益源となっています。
この一連の仕組みは、単一の目的を達成するものではありません。具体的には、以下の多面的な効果を生み出しています。
- エネルギーコストの削減:電力の一部を自給することで、外部からの電力購入量を減らし、変動するエネルギー価格への耐性を高めています。
- 廃棄物処理コストの削減:従来であればコストをかけて処理していた廃棄物を有効活用し、処理費用を大幅に削減しています。
- 環境負荷の低減:鶏糞の不適切な処理によるメタンガス(強力な温室効果ガス)の放出を防ぎ、化石燃料の使用を抑制することで、温室効果ガスの排出削減に貢献しています。
- 地域社会との共生:大規模畜産施設で問題となりがちな臭気を大幅に低減し、周辺環境への配慮と地域住民との良好な関係構築に繋がっています。
製造業における廃棄物の再評価
CPF社の事例は、食品産業に限らず、日本のあらゆる製造業にとって重要な視点を提供してくれます。多くの工場では、生産プロセスから何らかの副産物や廃棄物(有機汚泥、廃液、廃熱、切りくず等)が発生します。これらは長年、処理すべき「コスト」と見なされてきました。しかし、技術の進歩により、これらをエネルギー源や有価物として再利用できる可能性が広がっています。
自社の工場から排出されるものを改めてリストアップし、その特性を分析することから始めるべきかもしれません。CPF社が鶏糞の持つエネルギーポテンシャルに着目したように、自社の廃棄物にも、エネルギー転換、マテリアルリサイクル、あるいは他産業での原料化といった、新たな価値創造の可能性があるのではないでしょうか。こうした視点の転換こそが、持続可能な工場運営への第一歩となります。
日本の製造業への示唆
本事例から、日本の製造業が実務に活かすべき要点と示唆を以下に整理します。
要点:
- 廃棄物の資源化:廃棄物は「処理コスト」ではなく、「未利用の資源」であるという認識を持つことが重要です。エネルギー源や新たな製品の原料として活用することで、コスト削減と新たな収益創出の可能性があります。
- エネルギーの地産地消:工場内でエネルギーを創出することは、エネルギーコストの削減だけでなく、サプライチェーンの安定化や事業継続計画(BCP)の観点からも有効です。
- 統合的な課題解決:廃棄物処理、エネルギー、環境負荷、地域貢献といった個別の課題を、一つのソリューションで統合的に解決できる可能性があります。CPF社の事例は、その好例と言えます。
- サステナビリティ経営の具現化:こうした取り組みは、ESG(環境・社会・ガバナンス)経営を具体的に示すものであり、企業のブランドイメージや競争力の向上に直結します。
実務への示唆:
まずは自社の生産プロセスを精査し、排出される廃棄物や副産物の種類、量、特性を正確に把握することから始めるべきです。その上で、バイオマス発電、廃熱回収、メタン発酵など、その特性に合ったエネルギー転換技術や再資源化技術の適用可能性を検討することが求められます。初期投資は必要となりますが、国や自治体の補助金制度なども活用しながら、長期的な視点で投資対効果を評価することが肝要です。また、自社単独での解決が難しい場合は、近隣の工場や異業種(農業、エネルギー事業者など)と連携し、地域全体での資源循環システムを構築することも有効な選択肢となるでしょう。


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