米国の主要な製造業団体である全米製造業者協会(NAM)が、その中核組織である製造業協会評議会(CMA)の新リーダーを発表しました。この人事は、米国の製造業が直面する課題と、今後の産業政策の方向性を読み解く上で重要な意味を持ちます。
米国最大の製造業団体、NAMとその評議会
全米製造業者協会(National Association of Manufacturers: NAM)は、米国における最大かつ最も影響力のある製造業団体です。大小様々な規模の製造業企業が加盟し、米国製造業全体の競争力強化を目指して、政府への政策提言やロビー活動を活発に行っています。いわば、米国製造業の「声」を代弁する存在と言えるでしょう。
そのNAMの内部組織である製造業協会評議会(Council of Manufacturing Associations: CMA)は、化学、航空宇宙、機械、食品など、多岐にわたる分野の250以上の業界団体が参加する連合体です。個別の業界だけでは解決が難しい、サプライチェーンの強靭化、労働力不足、国際的な通商問題といった共通課題について、業界横断で議論し、NAM全体の活動方針を形成する上で中心的な役割を担っています。
新体制が担うであろう重要課題
今回発表されたCMAの新リーダーシップは、これからの米国製造業がどこに重点を置いていくかを示唆しています。具体的な氏名や経歴はさておき、このようなリーダーシップの交代は、変化する経営環境への適応を意図したものです。現在、米国の製造業は、国内への生産回帰(リショアリング)の推進、熟練労働者の育成と確保、サイバーセキュリティの強化、そして脱炭素化をはじめとする環境規制への対応など、数多くの複雑な課題に直面しています。
日本の製造現場においても、これらの課題は決して他人事ではありません。特に、地政学リスクの高まりを受けたサプライチェーンの再構築や、DX(デジタルトランスフォーメーション)を担う人材の不足は、多くの企業にとって喫緊の経営課題です。米国の業界団体が、どのような優先順位でこれらの課題に取り組もうとしているのかを注視することは、我々が自社の戦略を立てる上でも参考になります。
個社を超えた「業界としての戦略」の重要性
今回のニュースは、単なる人事異動の報にとどまりません。これは、個々の企業の努力だけでは乗り越えられないマクロな課題に対し、業界全体として連携し、戦略的に対応していくという強い意志の表れと解釈できます。政府の政策や国際標準、規制の動向は、一企業の努力で変えることは困難ですが、業界団体が結束して声を上げることで、自らにとって有利な事業環境を形成することが可能になります。
特に、通商政策や環境規制のように、国際的なルールメイキングが事業の根幹を揺るがしかねないテーマにおいては、業界団体の果たす役割は極めて大きくなります。NAMのような強力な団体が、政府と密に連携しながら産業政策を形成していく米国の姿は、日本の製造業にとっても学ぶべき点が多いと言えるでしょう。
日本の製造業への示唆
今回の米国NAMの動向から、日本の製造業関係者が得るべき実務的な示唆を以下に整理します。
1. 業界横断での連携強化
自社の業界団体内での活動はもちろんのこと、異業種の団体とも連携し、製造業共通の課題(例:物流の2024年問題、エネルギーコストの高騰、人材育成など)に対する解決策を模索する視点が重要です。米国のCMAのように、多様な知見を結集するプラットフォームは、新たなイノベーションや政策提言の土台となります。
2. 政策形成への能動的な関与
政府の決定を待つのではなく、自社の事業やサプライチェーンに影響を及ぼす政策課題について、業界団体を通じて積極的に意見を発信していく姿勢が求められます。特に、経済安全保障やGX(グリーン・トランスフォーメーション)関連の政策は、今後の競争条件を大きく左右するため、当事者意識を持った関与が不可欠です。
3. グローバルな産業政策動向の継続的な監視
米国をはじめとする主要国の製造業団体の活動方針や政策提言は、その国の産業政策の先行指標となり得ます。これらの情報にアンテナを張り、グローバルな競争環境の変化を早期に察知することで、自社の経営戦略や事業継続計画(BCP)をより実効性の高いものにすることができます。海外の業界ニュースであっても、自社の事業と結びつけて読み解く習慣が、将来のリスク回避と機会創出につながります。


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