Covid-19のパンデミックを経て、医療機器メーカーが製造委託先(CDMO)に寄せる期待は大きく変化しました。単なる製造能力だけでなく、開発初期段階からの関与や、強靭なサプライチェーンの構築までを担う「戦略的パートナー」としての役割が、今や不可欠となりつつあります。
パンデミックが突き付けた課題と期待の変化
Covid-19のパンデミックは、世界中のサプライチェーンに深刻な影響を与えました。特に、人命に直結する医療機器の分野では、製品を迅速かつ安定的に市場へ供給することの重要性が改めて浮き彫りになりました。この経験を経て、医療機器メーカーは、製造委託先であるCDMO(Contract Development and Manufacturing Organization)に対し、従来とは比較にならないほど高いレベルの要求をするようになっています。
これまで重視されてきたコストや納期といった指標に加え、「市場投入までの時間短縮(Speed to market)」や「サプライチェーンの強靭性(Resilience)」が、委託先を選定する上での極めて重要な要素となったのです。これは、単に仕様書通りに製品を組み立てるだけの関係性では、もはや顧客の期待に応えられない時代になったことを意味します。
「サプライヤー」から「戦略的パートナー」への転換
今日の医療機器メーカーがCDMOに求めているのは、単なる製造能力の提供者、つまり「サプライヤー」としての役割ではありません。製品の構想や設計といった、より川上の開発段階から深く関与し、共に製品を創り上げていく「戦略的パートナー」としての役割です。
具体的には、製造のしやすさを考慮した設計(DfM: Design for Manufacturing)に関する専門的な知見の提供が挙げられます。開発の初期段階で製造現場の視点を取り入れることで、後工程での手戻りを防ぎ、品質の安定とコストダウン、そして開発期間の短縮を実現できます。これは、日本の製造業が長年培ってきた「源流管理」や「フロントローディング」の思想と通じるものがあり、その重要性が改めて認識されていると言えるでしょう。
強靭なサプライチェーン構築への貢献
パンデミックによる部品不足や物流の混乱は、多くの企業にとって事業継続を脅かす大きなリスクとなりました。そのため、CDMOには、自社が担う製造工程だけでなく、サプライチェーン全体を見渡したリスク管理能力が求められます。
例えば、特定の一社に依存している重要部品があれば、そのリスクを顧客であるメーカーに報告し、代替部品の評価や調達先の複線化を積極的に提案する。こうした動きは、単なる受託製造の枠を超えた、パートナーとしての信頼を築く上で不可欠です。有事の際に迅速に対応できる体制を、平時から顧客と共に構築しておくことが、CDMOの新たな付加価値となっています。
垂直統合と自動化による価値提供
複雑なサプライチェーンを簡素化し、リードタイムを短縮する有効な手段として「垂直統合」が注目されています。これは、部品製造、組立、滅菌、梱包といった一連の工程を、可能な限り自社グループ内で完結させる体制を指します。これにより、工程間の連携がスムーズになり、品質管理やトレーサビリティの確保も容易になります。
また、品質要求が極めて厳しい医療機器の製造において、自動化技術の導入は避けて通れません。自動化は、コスト削減や生産性向上はもちろんのこと、ヒューマンエラーの削減による品質の安定化に大きく寄与します。特に、精密な組立や厳格な検査工程において、人のスキルへの依存を減らし、安定した品質を担保する上で自動化の役割はますます重要になっています。
日本の製造業への示唆
今回取り上げた医療機器業界の変化は、他の多くの製造業にとっても決して他人事ではありません。この事例から、日本の製造業が学ぶべき点は多岐にわたります。
1. 「下請け」意識からの脱却と提案力の強化:
顧客の要求通りにモノを作るだけの「下請け」から、顧客が抱える本質的な課題を共に解決する「パートナー」へと、自社の立ち位置を再定義する必要があります。自社の持つ技術やノウハウを棚卸しし、それを活かしてどのような付加価値を提案できるかを常に考える姿勢が求められます。
2. 開発初期段階からの積極的な関与:
「後工程はお客様」という考え方をさらに推し進め、顧客の開発プロセスに早期から関与する「フロントローディング」を実践することが重要です。これにより、手戻りのない効率的なモノづくりを実現し、顧客からの信頼を勝ち取ることができます。
3. サプライチェーン全体を俯瞰する視点:
自社の担当工程だけを見るのではなく、サプライチェーン全体のリスクを把握し、その安定化に貢献する視点が不可欠です。これは、事業継続計画(BCP)の観点からも極めて重要であり、企業の競争力を左右する要素となります。
4. デジタル技術と自動化への投資:
安定した品質と生産性を実現するため、デジタル化(DX)や自動化への投資は今後ますます重要になります。単に設備を導入するだけでなく、それを使いこなし、データを活用して改善に繋げることのできる人材の育成も同時に進めていく必要があります。
顧客との関係性が大きく変わろうとしている今、変化に対応し、新たな価値を提供できる企業だけが選ばれる時代が来ています。自社の強みを再認識し、戦略的なパートナーとして顧客に貢献する道筋を、今一度見直すべき時期に来ているのではないでしょうか。


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