英国のエネルギー企業の動向を伝える記事の中に、製造業の我々にとっても示唆に富む一節がありました。それは事業を「資源の特定」「開発」「生産管理」という三つの段階で捉える視点です。本稿では、この考え方を日本の製造業の現場に当てはめ、事業プロセス全体を俯瞰する重要性について考察します。
エネルギー産業における基本的な事業構造
海外のエネルギー企業のニュースで、事業内容を「resource identification (資源の特定), field development (開発), and production management (生産管理)」と表現している箇所がありました。これは、石油や天然ガスといった資源を発見し、商業生産できる形に設備を整え、そして日々の生産を管理するという、エネルギー産業の根幹をなす一連の流れを示しています。このプロセスは、探査から生産まで、極めて長期的かつ大規模な投資を伴う壮大な事業の連鎖と言えるでしょう。
製造業のプロセスとの対比と考察
この三段階のプロセスは、我々製造業の事業活動にもそのまま当てはめて考えることができます。それぞれの段階を、日本の製造業の文脈で捉え直してみましょう。
1. 資源の特定 (Resource Identification)
製造業における「資源」とは、単に原材料や部品だけを指すものではありません。むしろ、市場の潜在的なニーズ、革新的な技術シーズ、あるいは競争力の源泉となる独自のノウハウや人材なども含まれます。事業の出発点として、どの市場で、どのような技術を核にして戦うのか、その「鉱脈」を見つけ出す極めて重要な段階です。この最初の見立ての精度が、その後の事業の成否を大きく左右することは、多くの技術者や経営者が経験的に理解していることでしょう。
2. 開発 (Field Development)
エネルギー産業が油田やガス田を開発するように、製造業では特定したニーズや技術を具体的な製品として具現化し、それを量産するための生産体制を構築します。製品設計、工法開発、生産ラインの設計・立ち上げ、サプライヤーとの連携体制の構築などがこの段階に含まれます。いわば、コンセプトを「儲かる仕組み」に落とし込む工程であり、生産技術部門や設計開発部門が中心的な役割を担います。ここでの作り込みが、後の生産段階における品質(Q)・コスト(C)・納期(D)のレベルを決定づけます。
3. 生産管理 (Production Management)
構築された生産ラインを用いて、日々の生産活動を効率的かつ安定的に運営する段階です。現場での品質管理、工程改善、サプライチェーンの最適化、設備の保守保全など、QCDを維持・向上させるための継続的な活動が求められます。多くの工場では、この生産管理こそが現場運営の中核業務であり、日々の改善活動の積み重ねが企業の収益を支えています。
プロセス全体の連携を俯瞰する視点
重要なのは、これら三つの段階がそれぞれ独立しているのではなく、密接に連携した一連のプロセスであると認識することです。例えば、上流である「資源の特定」の段階で市場ニーズを読み違えれば、どれほど優れた「開発」や「生産管理」を行っても、市場に受け入れられる製品は生まれません。また、「開発」段階で生産現場の実情を無視した設計を行えば、「生産管理」の段階で歩留まりの悪化や手間の増大といった問題が必ず発生します。
日本の製造業は、各部門の専門性が高い一方で、時に部門間の壁が厚くなる傾向が見られます。設計は設計、生産技術は生産技術、製造は製造、と役割が分断され、情報連携が不足することで、プロセス全体として非効率が生じていないでしょうか。自社の事業活動全体をこの三段階のモデルに当てはめ、各段階の連携が円滑に行われているか、今一度点検してみる価値は大きいと考えます。
日本の製造業への示唆
今回の考察から、日本の製造業が改めて認識すべき要点と実務への示唆を以下に整理します。
要点
- 自社の事業を「資源特定(ニーズ・技術シーズ探索)」「開発(製品設計・生産準備)」「生産管理(量産・改善)」という一貫したプロセスとして捉え直すことが重要です。
- 事業の成功は、個々のプロセスの優秀さだけでなく、プロセス間の円滑な連携によって決まります。特に、上流工程の精度が下流工程の効率と成果を大きく左右します。
- 部門最適に陥ることなく、事業プロセス全体を俯瞰し、情報が滞りなく流れる仕組みを構築することが、組織としての競争力を高める鍵となります。
実務への示唆
- 経営層・工場長: 設計開発の初期段階から、生産技術や製造、品質保証、さらには調達部門の担当者を参画させるクロスファンクショナルな体制(コンカレントエンジニアリング)の徹底が求められます。部門間のコミュニケーションを活性化させ、プロセス全体の視点を持つ人材の育成が急務です。
- 現場リーダー・技術者: 自身の担当業務がプロセス全体のどの部分を担っているのかを常に意識することが大切です。後工程はお客様であるという意識はもちろん、前工程に対して現場の実情に基づいた具体的なフィードバックを行うことで、プロセス全体の改善に貢献できます。


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