海外のエンジニア向けコミュニティで、SAPの導入・運用経験を持つ生産管理担当者が、次のステップとして自動化やコンサルティング分野へのキャリアに関心を寄せる投稿がありました。この事象は、日本の製造業におけるIT人材の育成と、そのキャリアパスを考える上で重要な示唆を与えてくれます。
海外で見られるIT人材のキャリア意識の変化
先日、海外の技術者向けコミュニ-ティサイトにおいて、ある興味深い投稿がなされました。投稿主は、製造業の生産管理担当者として約2年間、SAP Business One(中小企業向けのERP)の導入と運用に携わってきた人物です。彼はその経験を活かし、次のキャリアとして、より専門的な「自動化」の領域や、社外への「コンサルティング」といった道筋を模索しているようでした。
これは、単なる一個人のキャリア相談と片付けるには惜しい、重要な変化の兆しと捉えることができます。ERP(統合基幹業務システム)の導入と運用を経験し、自社の業務プロセスとデータの流れを深く理解した人材が、現状維持に留まるのではなく、その知見を基に、より付加価値の高い業務へとステップアップしようとしているのです。これは、基幹システムの導入が「ゴール」ではなく、業務変革の「スタート」であるという認識が、現場レベルで浸透しつつあることの表れと言えるでしょう。
日本の製造現場におけるIT人材の現在地
この動きを日本の製造業に置き換えて考えてみましょう。多くの中堅・中小企業では、情報システム部門が独立して存在するケースはまだ少なく、生産管理や製造技術の担当者が、いわば「成り行き」で社内システムの管理を兼務していることが珍しくありません。彼らは、日々の生産計画や工程管理に追われながら、現場の要望とシステムの仕様の狭間で奮闘しています。
しかし、見方を変えれば、こうした人材は「現場業務」と「ITシステム」の両方を理解する、極めて貴重な存在です。生産の段取り、部材の調達、品質の維持といった現場の実態を知り尽くした上で、データがシステム上でどのように扱われるかを把握している。このような「ハイブリッド人材」こそ、昨今叫ばれる製造業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を、絵に描いた餅で終わらせないためのキーパーソンとなり得ます。
「社内コンサルタント」という新たな役割
先の投稿者が「コンサルティング」というキャリアに関心を示した点は、特に注目に値します。これは必ずしも、コンサルティングファームへ転職することだけを意味するわけではありません。むしろ、自社の中に留まり、その知見を活かして各部署の業務改善を支援する「社内コンサルタント」としての役割が、今後ますます重要になってくるでしょう。
例えば、ERPに蓄積された生産実績データを分析し、ボトルネック工程を特定して改善策を提案する。あるいは、手作業で行われている検査記録や日報の入力を、RPA(Robotic Process Automation)やタブレット端末を用いて自動化・効率化する。こうした活動は、外部のコンサルタントに依頼することも可能ですが、自社の事情を深く理解した内部の人材が主導することで、より現場に即した、実効性の高い改善が期待できます。
企業は貴重な人材をどう活かすべきか
一方で、企業側には課題もあります。向上心のある優秀な人材ほど、現在の業務に閉塞感を覚え、より挑戦的な環境を求めて社外へ流出してしまうリスクがあるからです。「システムの面倒を見る人」という従来の役割に固定化してしまうと、彼らの持つポテンシャルを活かしきれないばかりか、貴重なノウハウを失うことにもなりかねません。
経営層や工場長は、こうした現場を熟知したIT人材の価値を正しく認識し、彼らが活躍できる場を提供することが求められます。例えば、全社的なDX推進プロジェクトのリーダーに抜擢したり、データ分析や新規の自動化技術の導入を専門に担う役割を与えたりするなど、明確なキャリアパスと権限委譲を検討すべきです。彼らの成長は、個人のキャリアアップに留まらず、会社全体の競争力強化に直結するのです。
日本の製造業への示唆
今回の海外の事例から、日本の製造業が学ぶべき要点と実務への示唆を以下に整理します。
要点:
- ハイブリッド人材の価値の高まり: 生産管理などの現場業務知識と、ERPなどのITシステム知識を併せ持つ人材は、今後のDX推進において不可欠な存在です。
- キャリアパスの多様化: こうした人材は、従来のシステム運用・保守の枠を超え、業務プロセスの自動化、データ分析、社内業務改革の推進役といった、より付加価値の高い役割を志向する傾向にあります。
- 人材の育成と定着が鍵: 企業は、彼らの能力を正当に評価し、挑戦的な役割やキャリアパスを提供しなければ、貴重な人材を失うリスクがあります。DXを内製化するためには、こうした人材の育成と定着が不可欠です。
実務への示唆:
- 経営層・工場長へ: 自社に「現場がわかるIT人材」がいるかを確認し、彼らとキャリアプランについて対話する機会を設けるべきです。彼らをDX推進プロジェクトのキーパーソンに任命し、必要な研修の機会や権限を与えることが、効果的な投資となります。
- 現場リーダー・技術者へ: ご自身の業務知識にITスキルを掛け合わせることで、キャリアの可能性は大きく広がります。ERPに蓄積されたデータを日々の改善活動にどう活かせるか、あるいはRPAなどのツールで定型業務をどう効率化できるか、といった視点を持つことが、自身の市場価値を高める第一歩となるでしょう。


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