オーストラリアで爆発物の原料となりうる化学物質が民家から発見されるという事件が報じられました。この一見、製造業とは無関係に見えるニュースから、私たちは化学物質の管理やサプライチェーンにおけるセキュリティの重要性を再認識する必要があります。
事件の概要
先日、オーストラリアのパースで、ある個人の住居から爆発物の製造に一般的に使用される化学物質や材料が法科学チームによって発見されたという報道がありました。これは刑事事件として扱われていますが、製造業に携わる我々にとっても、自社が製造・管理する化学物質が意図しない形で社会に流出し、悪用されるリスクについて考えるきっかけとなります。
製造現場における化学物質管理の再点検
多くの工場では、生産活動のために様々な化学物質を使用・保管しています。これらの化学物質は、日本の国内法においても、毒物及び劇物取締法、消防法、労働安全衛生法、化管法(特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律)など、多岐にわたる法律によって厳格な管理が義務付けられています。日々の業務においては、これらの法規制を遵守し、定められた手順に従って在庫管理や保管、廃棄が行われていることと存じます。
しかし、今回の事件は、こうした正規の管理の輪から外れた化学物質が、深刻な事態を引き起こす可能性を示唆しています。改めて、自社の管理体制に脆弱性がないかを確認することが重要です。具体的には、保管場所の施錠管理やアクセス制限は徹底されているか、在庫量の定期的な実地棚卸は正確に行われているか、そして従業員に対する化学物質の危険性や適正な取り扱いに関する教育は十分か、といった点を多角的に見直す必要があるでしょう。
サプライチェーンにおけるセキュリティの視点
化学物質の管理は、自社の敷地内だけで完結するものではありません。原材料の調達から製品の販売、顧客への納入に至るサプライチェーン全体で、その流れを管理し、セキュリティを確保する視点が不可欠です。特に、他用途への転用が懸念される化学品や製品を扱っている場合、その責任はさらに重くなります。
販売先が信頼できる相手であるか、またその製品がどのような最終用途(エンドユース)で使われるのかを確認するプロセスは、安全保障貿易管理の観点だけでなく、企業の社会的責任としても重要です。納品後の製品が転売されたり、意図しない目的で使用されたりするリスクを想定し、必要に応じて販売契約に使用目的を明記する、あるいは顧客に対して適切な管理を要請するといった対策も考えられます。
経営課題として認識すべきレピュテーションリスク
万が一、自社が製造・販売した製品が犯罪などに悪用された場合、直接的な法的責任を問われなかったとしても、「管理が甘い企業」という社会的な評価を受け、企業の信用が大きく損なわれる可能性があります。これは「レピュテーションリスク」と呼ばれ、企業の存続にも関わる重大な経営課題です。現場レベルでの物理的な管理徹底はもちろんのこと、経営層がこうしたリスクを認識し、全社的な管理体制の構築や方針の明確化を主導することが求められます。
日本の製造業への示唆
今回の海外での事件を対岸の火事と捉えず、自社の事業活動に潜むリスクを再評価する機会とすべきです。以下の点を参考に、自社の管理体制を見直すことを推奨します。
1. 化学物質管理体制の再点検:法規制の遵守は当然のこととして、物理的なセキュリティ(施錠、アクセス管理、監視カメラ等)や、在庫管理の精度向上、従業員教育の徹底など、実務レベルでの管理体制を今一度点検することが重要です。
2. サプライチェーン全体の可視化と管理:自社の製品が、どのような経路で最終顧客に届くのかを把握し、不正な流通や転用を防ぐための仕組みを検討します。特に慎重な取り扱いが求められる製品については、販売先の審査や使用目的の確認プロセスを強化することが求められます。
3. リスクの経営課題としての認識:製品の不正転用リスクを、現場任せにせず、経営が主導して取り組むべきレピュテーションリスクとして位置づけ、全社的な対策を講じることが、企業の持続的な成長と社会的信用の維持に繋がります。


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