米国エアライフル負傷訴訟に学ぶ、製造物責任における「設計」と「製造」の境界

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米国で発生したエアライフルによる負傷事故を巡る訴訟は、製品の欠陥を「製造上の欠陥」と「設計上の欠陥」に分けて判断するという、製造物責任(PL)の重要な論点を示しています。特に、取扱説明書の不備が設計欠陥と見なされる可能性を示したこの事例は、グローバルに製品を供給する日本の製造業にとっても示唆に富むものです。

事件の概要:エアライフルによる負傷事故と訴訟

米国ルイジアナ州の連邦地方裁判所で審理されたこの訴訟は、あるユーザーがエアライフル(空気銃)の使用中に親指を負傷した事故に端を発します。ユーザーは、この負傷は製品の欠陥によるものだとして、製造業者および供給業者に対し、製造物責任法に基づき損害賠償を求めました。原告側の主張の要点は、「製造上の欠陥」「設計上の欠陥」、そして「不適切な警告」の3点でした。

これに対し、被告である製造・供給業者側は、正式な裁判を経ずに訴えを棄却するよう求める「略式判決」の申し立てを行いました。裁判所はこの申し立てを審理し、「製造上の欠陥」については被告の主張を認めた一方、「設計上の欠陥」については申し立てを棄却し、正式な裁判で争うべきであるとの判断を下しました。この判断の違いが、我々製造業に携わる者にとって重要な学びとなります。

争点1:「製造上の欠陥」が認められなかった理由

まず、裁判所が被告側の主張を認めた「製造上の欠陥」について見ていきましょう。製造上の欠陥とは、製品が本来の設計仕様や製造基準から逸脱して製造されたために、安全性を欠く状態を指します。いわば、製造工程における品質のばらつきや、不良品の流出が原因となる欠陥です。

今回の訴訟で原告は、事故を起こした製品が設計通りに作られていなかったと主張しました。しかし、具体的にどの部品が、どのように設計仕様から逸脱していたのかを立証することができませんでした。客観的な証拠をもって「あるべき姿」と「実際の製品」の違いを証明できなかったため、裁判所は製造上の欠陥に関する訴えを退けたのです。これは、図面や仕様書に基づいた厳格な品質管理体制を維持することの重要性を改めて示しています。製造現場において、QC工程図や検査基準書に基づいた管理を徹底し、その記録を保管しておくことが、万が一の事態において自社の正当性を証明する上で不可欠となります。

争点2:「設計上の欠陥」の申し立てが棄却された背景

一方で、裁判所が原告の主張を認め、正式な裁判での審理が必要としたのが「設計上の欠陥」です。設計上の欠陥とは、製造工程に問題はなく、設計仕様通りに作られたとしても、その設計自体に内在する危険性のために安全性を欠く状態を指します。

この訴訟で特に注目すべきは、原告が「取扱説明書における警告が不十分であったこと」を設計上の欠陥の一部として主張した点です。被告側は、製品の危険性は「明白」であり、警告は十分であったと反論しましたが、裁判所は、警告内容の妥当性や、より安全な代替設計案が存在したかどうかについては、専門家の意見なども含めて陪審員が判断すべき複雑な問題であると結論付けました。そのため、略式判決で棄却することはせず、法廷で詳細に審理されることになったのです。

この判断は、日本の製造業においても非常に重要です。私たちはしばしば、製品本体の設計と、取扱説明書や警告ラベルを分けて考えがちです。しかし、米国の製造物責任の考え方では、これら説明書や警告ラベルも製品を構成する重要な一部であり、その不備は「指示・警告上の欠陥」として、設計上の欠陥に含まれると解釈されるのが一般的です。使用者が製品の危険性を十分に認識し、回避できるような具体的で分かりやすい情報を提供することが、設計者や製造者の責任として厳しく問われます。

日本の製造業への示唆

今回の米国の訴訟事例は、グローバルな市場で事業を展開する日本の製造業にとって、改めて自社の製品安全に関する取り組みを見直す良い機会となります。以下に、実務における要点と示唆を整理します。

1. 「製造品質」と「設計品質」の明確な切り分けと管理
「製造上の欠陥」を防ぐには、確立された品質管理システム(QMS)に基づき、設計仕様からの逸脱を許さない厳格な工程管理が求められます。一方で「設計上の欠陥」は、設計段階でのリスクアセスメント(FMEAなど)や、過去の事故事例、法規制、関連規格の動向などを踏まえた、本質的な安全設計によって未然に防ぐ必要があります。両者は性質が異なり、それぞれに対応した対策が不可欠です。

2. 取扱説明書と警告表示を「製品の一部」として設計する
取扱説明書や警告ラベルの作成を、設計工程の最終段階や、あるいは別部門の業務として軽視してはなりません。製品の使用によって生じうるあらゆる危険を予見し、ユーザーが直感的に理解できる言葉と図で、明確な指示と警告を与えることがPLリスクを低減する上で極めて重要です。これは、製品の安全性を担保する設計行為そのものであると認識すべきでしょう。

3. グローバルなPLリスクへの備え
特に訴訟社会である米国をはじめ、各国で製造物責任に対する考え方や法制度は異なります。輸出先の国の法規制や判例を十分に調査し、設計思想や警告表示のあり方を現地の要求水準に適合させる必要があります。法務部門や専門家と連携し、グローバル基準でのリスク管理体制を構築することが、企業の持続的な成長を支える基盤となります。

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