国際クリーン交通委員会(ICCT)の最新レポートによると、2025年の欧州市場における乗用車の平均CO2排出量は98g/kmになる見通しが示されました。この数値は、日本の自動車メーカーおよび関連サプライヤーにとって、電動化への対応と生産体制の変革を迫る重要な指標となります。
欧州市場におけるCO2排出規制の現状
環境規制に関する独立研究機関である国際クリーン交通委員会(ICCT)が公表した市場モニターレポートは、2025年の欧州乗用車市場におけるCO2排出量の平均値が98g/kmに達するという見通しを示しています。この数値は、各自動車メーカーが販売する新車の平均値であり、クレジット制度などを活用した後の目標達成状況を反映したものです。
日本の燃費基準であるWLTCモードに単純換算すると、およそ23.8km/Lに相当する厳しい水準です。従来のガソリンエンジンやディーゼルエンジンの改良だけでは達成が極めて困難であり、ゼロエミッション車(ZEV)である電気自動車(BEV)や、プラグインハイブリッド車(PHEV)の販売比率を相当数高めなければ到達できない領域と言えます。欧州市場の環境規制が、自動車メーカーの製品構成そのものを変える強力なドライバーとなっている現実が浮き彫りになります。
「メーカープール」とクレジット制度の実態
レポートで言及されている「メーカープール」とは、複数の自動車メーカーが企業グループとして、あるいは協定を結んで、排出量実績を合算できる制度です。例えば、排出量の多いメーカーが、BEV専業メーカーなど排出量の少ないメーカーとプールを組むことで、グループ全体で規制値をクリアする戦略が取られています。これは、自社単独での目標達成が難しいメーカーにとって重要な選択肢となっています。
また、「コンプライアンス・クレジット」は、規制値を下回る達成度に応じてメーカーに与えられるもので、将来の未達分を補ったり、他社に売却したりすることが可能です。こうした制度の存在は、単なる技術開発だけでなく、規制対応のための財務戦略や企業間連携の重要性が増していることを示唆しています。
日本の生産現場への影響と課題
欧州の動向は、日本の自動車メーカーおよび部品サプライヤーの生産現場に直接的な影響を及ぼします。主要な輸出先である欧州市場の要求に応えるためには、電動化に対応した生産体制へのシフトが不可欠です。
具体的には、エンジンやトランスミッションといった内燃機関部品の需要が中長期的に減少する一方、モーター、インバーター、バッテリーパック、およびそれらを制御する電子部品の需要が拡大します。これは、サプライチェーンの構造的な変化を意味します。これまでエンジン部品を手掛けてきたサプライヤーは、事業の転換や新たな技術開発を迫られることになります。
工場の生産ラインにおいても、高電圧部品の取り扱いやバッテリーの組み立てなど、従来とは異なるスキルや安全管理が求められます。既存の組み立てラインの改修や、従業員の再教育(リスキリング)は、工場運営における喫緊の課題と言えるでしょう。
日本の製造業への示唆
今回のレポートが示す欧州市場の動向から、日本の製造業が汲み取るべき要点と実務的な示唆を以下に整理します。
1. 電動化へのシフトは不可逆的な流れであることの再認識
欧州の規制は、今後さらに強化されることが予想されます。電動化は一過性のトレンドではなく、事業継続のための必須条件となりつつあります。経営層は、電動化関連技術への研究開発投資や設備投資に関する意思決定を加速させる必要があります。
2. サプライチェーンの再構築と新たな連携の模索
従来の系列を中心としたサプライチェーンだけでなく、エレクトロニクスや化学分野など、異業種の企業との連携が重要性を増します。自社のコア技術を見極めつつ、外部の知見を積極的に取り入れる柔軟な姿勢が求められます。
3. 生産現場の柔軟性と人材育成への投資
工場運営においては、内燃機関車と電動車を同じラインで生産する「混流生産」への対応など、生産ラインの柔軟性向上が課題となります。同時に、高電圧システムやソフトウェアに関する知識を持つ技術者や技能者の育成は、将来の競争力を左右する重要な投資です。
4. グローバルな規制動向の継続的な注視
欧州だけでなく、北米や中国など、主要市場の環境規制は常に変化しています。各地域の規制動向を正確に把握し、製品開発や生産計画に迅速に反映させる情報収集・分析体制の強化が不可欠です。


コメント