ベントレー、特注車一台のために4つの新製造技術を開発 – 究極の個別生産が示す付加価値創出の姿

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英国の高級車メーカー、ベントレーが、ある顧客のための一台の特注車を製作するにあたり、4つもの新しい製造技術を開発したことが報じられました。この事例は、単なる高級品の話に留まらず、製造業におけるパーソナライゼーションと技術開発のあり方について、我々に多くの示唆を与えてくれます。

はじめに:一台の車のために技術を創出するということ

英国の高級車メーカーであるベントレーは、そのビスポーク部門「マリナー」において、世界に一台だけの特別なモデルを顧客のために製作しています。今回、米国の顧客向けに製作されたコンバーチブルモデル「バトゥール」のために、同社はこれまでにない4つの製造技術を新たに開発・実用化しました。この取り組みは、顧客の極めて高い要求に応えることが、いかにして製造技術の革新を促すかを示す好例と言えるでしょう。日本の製造業、特に少量多品種生産や高付加価値製品を手掛ける現場にとって、学ぶべき点が多い事例です。

実用化された4つの新製造技術

今回、ベントレーが実用化したとされる4つの技術は、内外装の意匠性を極限まで高めるためのものです。それぞれの技術を見ていくと、最新のデジタル技術と伝統的な職人技が見事に融合していることが分かります。

1. ローズゴールド糸を織り込んだカーボンファイバー
内外装のパネルには、サテンのような光沢を持つ特殊なカーボンファイバーが使用されました。これは、炭素繊維の織物にローズゴールドの糸を織り込むことで実現されたもので、複合材成形技術とテキスタイル技術を融合させた、まったく新しい素材表現と言えます。異種材料を組み合わせることで、強度や軽量性といった機能的価値だけでなく、高い意匠的価値を生み出しています。

2. 光沢からサテンへのグラデーション塗装
車体のストライプには、光沢のあるグロス仕上げから艶消しのサテン仕上げへと滑らかに変化する、特殊なグラデーション塗装が施されました。これは、マスキングや研磨、塗料の配合といった各工程において、極めて高度な技能と精密な工程管理が要求される技術です。塗装という成熟した技術分野においても、新たな表現の可能性があることを示しています。

3. 18金ローズゴールドの3Dプリンティング
ダッシュボード周りのスイッチ類や一部の装飾部品には、18金のローズゴールドを金属3Dプリンターで造形した部品が採用されました。積層造形(AM)技術は、試作品や治具製作での活用が一般的でしたが、このように最終製品、しかも貴金属を用いた高付加価値部品へ適用される例は、今後のAM活用の方向性を示唆しています。少量生産において、金型を必要とせずに複雑形状を実現できるメリットを最大限に活かした事例です。

4. エアブラシによるグラデーション効果
フロントグリルなどには、職人の手作業によるエアブラシ塗装で、色が濃から淡へと変化する「オンブレ効果」と呼ばれるグラデーションが施されました。一見、伝統的な職人技ですが、これを安定した品質で製品として成立させるためには、作業手順の標準化や検査基準の確立など、製造技術としての体系化が不可欠です。人の技能を「技術」として管理・活用する視点が重要となります。

少量生産における技術開発の意義

「たった一台の車のために、なぜこれほどの技術開発を行うのか」という疑問が浮かぶかもしれません。しかし、ここには重要な戦略的意図が見て取れます。まず、こうした挑戦が「ベントレーならどんな要望にも応えてくれる」という強力なブランドイメージを構築します。そして、ここで培われたノウハウやデータは、将来の限定モデルや、さらには量産モデルの品質・意匠性向上にフィードバックされる、いわば「生きた研究開発」の場となっているのです。製造現場がR&Dの最前線となるこのスタイルは、特に日本のものづくり企業が持つ強みを活かせる領域かもしれません。

日本の製造業への示唆

このベントレーの事例から、日本の製造業が学ぶべき点を以下に整理します。

1. 付加価値は顧客の高度な要求から生まれる
顧客からの困難な要求は、コスト増の要因であると同時に、新たな技術やノウハウを生み出す絶好の機会です。製造現場が顧客の要求に真摯に向き合い、解決策を模索するプロセスそのものが、企業の競争力となり得ます。

2. デジタル技術と伝統技能の融合
金属3Dプリンティングのような最新技術と、熟練技能者による塗装技術を組み合わせることで、単独の技術では到達できない独自の価値が生まれます。日本には優れた要素技術と高い現場技能が両方存在しており、これらの融合を意識的に進めることが重要です。

3. 少量生産を「技術の実験場」と捉える
一品一様の製品づくりや少量生産を、コストセンターとしてではなく、将来の量産に向けた技術開発や人材育成の場として戦略的に位置づける視点が求められます。ここで得た知見は、企業全体の無形の資産となります。

4. 「意匠性」という品質の追求
機能や性能、耐久性といった従来の品質指標に加え、人の感性に訴えかける「意匠性」や「質感」もまた、重要な品質の一部です。素材開発から加工、仕上げに至るまで、一貫して意匠性を追求する姿勢が、製品の付加価値を大きく左右します。

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