米国アリゾナ州知事が、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)の経済的利益に関する調査結果を公表しました。この動きは、北米におけるサプライチェーン再編の潮流を反映しており、日本の製造業にとっても重要な示唆を含んでいます。
アリゾナ州がUSMCAの経済効果を強調
米国アリゾナ州のケイティ・ホッブス知事は、USMCAが州経済に与えるプラスの効果を分析した調査報告書を発表しました。この報告書では、製造業、農業、そして特に自動車産業や半導体などの先端製造業において、USMCAが貿易と投資を促進し、大きな利益をもたらしていると強調されています。また、協定をさらに強化し、経済的な連携を深める機会についても言及されており、北米域内での経済圏強化に向けた強い意志が窺えます。
背景にある北米サプライチェーンの再編
USMCAは、単なる自由貿易協定というだけでなく、北米域内でのサプライチェーン完結を促す戦略的な枠組みとしての側面を持ちます。特に自動車分野においては、NAFTA(北米自由貿易協定)時代よりも厳格化された原産地規則が導入され、一定比率以上の部品・原材料を域内で調達することが義務付けられました。これにより、自動車メーカーや部品サプライヤーは、北米での現地生産・調達体制の見直しを迫られています。
アリゾナ州がこのテーマに注目するのは、地理的な要因も大きいでしょう。メキシコと国境を接するアリゾナは、国境をまたぐサプライチェーンの要衝です。近年では、半導体をはじめとする先端製造業の集積地としても急速に発展しており、こうした産業のサプライチェーン安定化においても、USMCAの存在は不可欠と考えられています。
「ニアショアリング」と地政学的リスクへの対応
近年、米中間の対立やパンデミックによる物流の混乱を教訓に、多くの米国企業がアジアに依存していた生産・調達網を見直し、地理的に近いメキシコなどへ移管する「ニアショアリング」の動きを加速させています。USMCAは、このニアショアリングの受け皿となるメキシコとの安定した貿易・投資環境を保証する役割を担っており、北米全体のサプライチェーン強靭化に貢献しています。
今回の報告書で触れられている「USMCA強化の機会」とは、こうしたニアショアリングの流れをさらに後押しし、北米をより強固で自己完結的な生産ブロックにしていくための議論に繋がる可能性があります。これは、地政学的リスクを低減し、経済安全保障を確保したいという米国の国家戦略とも合致する動きと言えるでしょう。
日本の製造業への示唆
今回のニュースは、北米で事業を展開する日本の製造業にとって、改めて自社のサプライチェーン戦略を見直すきっかけとなります。以下に、実務的な示唆を整理します。
1. 北米域内調達の徹底と可視化:
特に自動車部品メーカーにとっては、USMCAの原産地規則を遵守することが事業の生命線です。自社製品の域内原産比率を正確に算出し、サプライヤーからの調達品についても構成を詳細に把握・管理する体制が不可欠です。必要に応じて、サプライヤーを北米域内の企業へ切り替える、あるいは自社の北米生産拠点を拡充するといった判断が求められます。
2. 「ニアショアリング」潮流への対応:
米国市場を主要なターゲットとする企業にとって、メキシコは生産拠点としてますますその重要性を増しています。人件費や物流の観点だけでなく、USMCAという安定した枠組みの存在が大きな利点となります。メキシコでの生産・調達体制の構築や強化は、北米事業における競争力と安定供給を両立させる上で有効な選択肢です。
3. 先端分野での事業機会の模索:
アリゾナ州をはじめ、米国内では半導体やEV(電気自動車)関連の先端製造業への大規模な投資が続いています。これは、日本の優れた素材・装置・部品メーカーにとって大きな事業機会を意味します。現地の投資動向や顧客ニーズを的確に捉え、北米でのサプライチェーンに参画していくことが期待されます。
4. 2026年の協定見直しへの注視:
USMCAには、6年ごとに協定を見直す「サンセット条項」が盛り込まれており、次回は2026年に予定されています。今回の調査報告書の発表も、この見直しに向けた地ならしの一環と見ることもできます。今後の見直し協議の動向によっては、原産地規則などがさらに変更される可能性も否定できません。関連情報の収集を怠らず、事業環境の変化に備えることが肝要です。


コメント