全米製造業者協会(NAM)の幹部が、ポッドキャスト番組「Supply Chain Now」で米国製造業の成長への道筋を語りました。本記事ではその内容を紐解きながら、日本の製造業が直面する課題と照らし合わせ、実務的な示唆を探ります。
米国製造業が描く成長へのシナリオ
全米製造業者協会(NAM)のジェイ・ティモンズCEOと、大手ヘルスケア企業ジョンソン・エンド・ジョンソンのキャシー・ウェンゲル上級副社長が、ポッドキャスト番組で米国製造業の将来について議論しました。その中で両氏は、適切な政策が実行されれば、米国の製造業は再び「爆発的な成長」を遂げる可能性があるという力強い見方を示しました。これは、近年のサプライチェーンの混乱や労働力不足といった厳しい環境を乗り越え、新たな競争力を獲得しようとする米国の産業界の意志の表れと言えるでしょう。
成長を支える4つの柱
議論の中で、製造業の成功に不可欠な「処方箋」として、4つの重要な要素が挙げられました。これらの要素は、程度の差こそあれ、日本の製造業にとっても共通する重要なテーマです。
1. 政策 (Policy)
まず、成長の土台となるのが政府による適切な政策です。税制のあり方、過度な規制の緩和、そしてインフラへの投資などが、企業の競争力を直接的に左右します。特に、研究開発や設備投資を促進するような政策は、産業全体の技術革新と生産性向上に不可欠です。日本の製造業においても、政府の産業政策や各種支援策の動向を常に注視し、自社の経営戦略に活かしていく視点が求められます。
2. 人材 (People)
次に、製造業の根幹をなす「人」の問題です。米国では、熟練労働者の不足と、次世代の担い手育成が大きな課題となっています。これに対応するため、企業と教育機関が連携した実践的なトレーニングや、デジタル技術を使いこなすためのスキルアップ(リスキリング)の重要性が強調されています。これは、少子高齢化と労働人口の減少という構造的な課題を抱える日本にとって、さらに切実な問題と言えるでしょう。多様な人材が活躍できる職場環境の構築も含め、持続可能な人材戦略が不可欠です。
3. 技術 (Technology)
デジタル化や自動化といった技術への投資は、もはや選択肢ではなく必須の取り組みです。スマートファクトリーの実現は、生産効率の向上だけでなく、品質の安定化や、働く人々の負担軽減にも繋がります。特に、データを活用した予知保全やサプライチェーンの最適化は、企業の収益性を大きく改善する可能性を秘めています。日本のものづくり現場でもIoTやAIの活用は進んでいますが、その流れをさらに加速させ、経営上の成果に結びつけていくことが重要です。
4. サプライチェーン (Supply Chain)
コロナ禍や地政学リスクの高まりを受け、サプライチェーンの強靭化(レジリエンス)が世界的な経営課題となっています。米国では、国内回帰(リショアリング)や近隣国での生産(ニアショアリング)への関心が高まっています。これは、単にコストだけでなく、安定供給やリードタイム短縮といった価値を重視する動きの表れです。日本の製造業も、特定地域への過度な依存を見直し、サプライチェーンの多元化や国内生産拠点の再評価を具体的に進めていく必要があります。
日本の製造業への示唆
今回のNAM幹部の議論は、米国の視点から語られたものですが、その内容は日本の製造業が直面する課題と深く重なります。以下に、実務への示唆を整理します。
・長期的視点での戦略策定:
人材育成、技術投資、サプライチェーン再構築は、いずれも一朝一夕には実現できません。目先の利益だけでなく、5年後、10年後を見据えた長期的な視点で戦略を立て、継続的に実行していくことが企業の持続的成長の鍵となります。
・外部環境への感度:
政府の政策や国際情勢、技術の最新動向といった外部環境の変化に常にアンテナを張り、それを自社の経営にどう取り込むかを考えることが重要です。特に、補助金や税制優遇などの制度は、積極的に情報を収集し、活用を検討すべきでしょう。
・現場起点のデジタル化:
DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する際は、単に新しい技術を導入するだけでなく、現場の課題解決にどう繋がるかを常に意識する必要があります。現場の従業員を巻き込み、彼らの知恵や経験を活かしながら、地に足の着いた改善を進めることが成功の秘訣です。
・サプライチェーンのリスク評価:
自社のサプライチェーンについて、「どこに、どのようなリスクが潜在しているのか」を定期的に評価し、可視化することが不可欠です。その上で、代替調達先の確保や在庫レベルの適正化など、具体的な対策を講じることが求められます。
米国の製造業が目指す力強い復活のシナリオは、私たち日本の製造業にとっても、自らの立ち位置を再確認し、次の一手を考える上で貴重な示唆を与えてくれるものと言えるでしょう。

コメント