ゲノム編集技術、畜産分野で実用化へ – カナダがPRRS耐性豚を承認

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カナダの規制当局が、特定のウイルス性疾患に耐性を持つようゲノム編集された豚を、食品として安全であると承認しました。この動きは、先端技術が食料生産の安定化や効率化にどう貢献するかを示す事例であり、日本の製造業にとっても示唆に富むものです。

カナダ当局、ゲノム編集によるPRRS耐性豚を承認

カナダ保健省およびカナダ食品検査庁は、豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)ウイルスに対する耐性を持つよう遺伝子を操作された豚について、食品としての安全性を評価し、承認したと発表しました。この承認には、環境への放出や動物用飼料としての利用も含まれています。

PRRSは、世界中の養豚業界で甚大な経済的損失を引き起こしている深刻なウイルス性疾患です。子豚の死亡率増加や繁殖成績の低下などを引き起こし、生産現場における長年の課題となっていました。従来の対策はワクチン接種などが中心でしたが、ウイルスの変異も早く、根絶が難しい状況でした。

PRRS耐性をもたらす技術的背景

今回承認された豚は、英国のGenUS社が開発したゲノム編集技術を用いて生み出されました。具体的には、PRRSウイルスが豚の細胞に侵入する際の足がかりとなる「CD163」というタンパク質を、遺伝子レベルで無効化する処理が施されています。これにより、ウイルスは細胞に感染することができなくなり、豚はPRRSに対して完全な耐性を持ちます。

この技術は、外部から新たな遺伝子を導入する「遺伝子組換え(GMO)」とは異なります。豚が元来持っている遺伝子情報の一部を精密に「編集」するだけであるため、従来の品種改良の延長線上にある技術と位置づけられています。製造業の言葉で言えば、問題を引き起こす特定の部品の設計を恒久対策として変更し、不具合の発生源を断つアプローチに近いと言えるでしょう。当局も、このゲノム編集豚は従来の豚と栄養面・安全面で同等であると結論付けています。

生産現場への影響と国際的な動向

この技術が実用化されれば、養豚という「生産現場」にいくつかの大きな利点がもたらされます。まず、病気による斃死や成長遅延といった損失がなくなり、生産性が安定・向上します。これは製造業における歩留まりの改善に相当します。また、動物の健康が保たれることで動物福祉が向上するほか、治療目的での抗生物質の使用を大幅に削減できる可能性があり、世界的な課題である薬剤耐性菌問題への貢献も期待されます。

米国では既に2022年に食品医薬品局(FDA)が同様のゲノム編集豚を承認しており、今回のカナダの決定は、この技術の社会実装に向けた国際的な潮流が加速していることを示しています。食料の安定供給というサプライチェーン全体の課題に対し、最先端の科学技術が具体的な解決策を提示した事例として注目されます。

日本の製造業への示唆

今回のニュースは畜産業界のものですが、日本の製造業にとってもいくつかの重要な示唆を含んでいます。

1. 技術革新による根本的な課題解決
PRRSという長年の課題に対し、ワクチン等の対症療法ではなく、ゲノム編集という技術で根本原因を排除するアプローチが取られました。これは、製造現場における品質問題や生産性のボトルネックに対し、日々の改善活動だけでなく、時には基礎科学や先端技術に立ち返り、前提条件そのものを変えることでブレークスルーを生み出す重要性を示しています。

2. サプライチェーン上流の技術革新への着目
特に食品メーカーや加工業者にとって、原料供給の安定化は経営の根幹をなす重要事項です。畜産のようなサプライチェーンの上流における技術革新は、自社の調達リスクを低減し、事業の強靭性を高めることに直結します。自社の事業領域だけでなく、サプライヤーやさらにその先の領域で起きている技術動向を把握することの価値は、今後ますます高まるでしょう。

3. 新技術の社会実装プロセス
ゲノム編集のような革新的な技術が社会に受け入れられるには、科学的データに基づいた規制当局による厳格な安全性評価が不可欠です。このプロセスは、自動運転や新素材、AIを活用した製造プロセスなど、日本の製造業が取り組む多くの新技術にも共通します。技術の有効性だけでなく、安全性や倫理的な側面について社会的な理解を得ながら実装を進めていく、という冷静な姿勢が求められます。

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