事業環境が環境投資を左右する – インドの事例から学ぶ、汚職とグリーン製造の関係性

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企業の環境対応は、技術やコストだけの問題ではありません。インドにおける製造業を対象とした研究は、地域の汚職レベルが企業のグリーン化投資の意思決定に大きな影響を及ぼすことを示唆しています。本記事では、この研究結果を紐解きながら、海外で事業を展開する日本企業にとっての実務的な意味合いを考察します。

はじめに – グリーン化を阻む見えざる要因

製造業において、省エネルギー設備の導入や廃棄物削減といった「グリーン化」への取り組みは、企業の持続的な成長に不可欠な要素となりつつあります。こうした投資の意思決定は、一般的に費用対効果や技術的な実現可能性、そして環境規制への対応といった観点から行われます。しかし、事業を展開する国や地域の社会的な「事業環境」もまた、企業の行動に大きな影響を与えることが、近年の研究で明らかになってきました。今回ご紹介するインドの研究は、その中でも「汚職」という要因が、企業の環境投資をいかにして阻害しうるかを実証的に示したものとして注目されます。

汚職が蔓延する地域で環境投資が進まない理由

Nature誌に掲載されたこの研究は、インドの各州における汚職のレベルと、そこに立地する製造業企業の環境関連投資の動向を分析したものです。その結果、汚職が蔓延している地域ほど、企業が環境汚染防止や省エネルギーのための投資に消極的になるという、明確な負の相関関係が確認されました。この背景には、いくつかのメカニズムが考えられます。

第一に、規制逃れの手段として賄賂が機能してしまう可能性です。本来であれば、厳しい環境基準をクリアするために設備投資を行うべきところを、監督官庁の担当者に賄賂を渡すことで規制の執行を免れる方が、企業にとって短期的には安上がりになる場合があります。このような環境では、真面目にコンプライアンスを遵守しようとする企業の競争力が削がれることにもなりかねません。

第二に、事業の予見可能性の低下です。汚職は、法や規制の運用を不透明かつ恣意的なものにします。環境関連の設備投資は、長期的な視点での判断が必要ですが、将来の規制の動向やその運用が予測できなければ、企業は投資リスクが高いと判断し、意思決定を躊躇してしまいます。認可プロセスが不透明であったり、要求される賄賂の額が変動したりする状況では、健全な事業計画を立てること自体が困難になります。

日本の製造業への示唆

このインドの事例は、海外に生産拠点やサプライヤーを持つ日本の製造業にとっても、決して他人事ではありません。まず、海外進出を検討する際のデューデリジェンス(事前調査)において、現地の汚職レベルや法執行の透明性といったカントリーリスクを、コストや市場規模と同等に重要な評価項目とすべきです。これらの要因は、環境コンプライアンスの難易度や予期せぬコストの発生に直結し、結果として事業の採算性を大きく左右するからです。

また、サプライチェーン全体のリスク管理という観点も重要です。自社の工場がクリーンであっても、部品を供給するサプライヤーが汚職の蔓延する地域で事業を行い、環境規制を遵守していない可能性も考えられます。近年、欧米を中心にサプライチェーン全体での人権・環境デューデリジェンスを求める動きが強まっています。自社のサプライチェーンに潜むESGリスクを把握し、管理していくことは、企業の社会的責任であり、事業継続のための必須要件となりつつあります。

最終的にこの研究は、企業の適切な意思決定には、健全で透明性の高いガバナンスが不可欠であるという、基本的な原則を再確認させてくれます。それは社内ガバナンスだけでなく、事業を行う社会全体のガバナンスも含まれます。法令遵守を徹底し、高い倫理観に基づいた経営を行うことが、長期的な環境投資を可能にし、ひいては企業の持続的な価値創造に繋がるのです。

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