西アフリカ沖で進む巨大な海洋油田プロジェクト。その最前線で導入されている技術は、日本の製造業が直面する課題解決のヒントを与えてくれます。本稿では、生産最適化と持続可能な操業という2つの観点から、これからの工場運営のあり方を考えます。
巨大プロジェクトを支えるデジタル生産管理
ナイジェリア沖合で進められているシェル社のボンガ油田開発は、200億ドル規模とも言われる巨大プロジェクトです。このような大規模かつ複雑な設備を安定的・効率的に稼働させるために、中核的な役割を担っているのが「デジタル油田技術」です。これは、各種センサーや通信技術を駆使して、海底から海上プラントに至る膨大な設備群の稼働状況をリアルタイムに監視し、得られたデータを解析して生産管理を最適化する仕組みを指します。
このアプローチは、日本の製造業におけるスマートファクトリーの取り組みと本質的に同じものと言えるでしょう。プラントのような装置産業はもちろん、組立加工の工場においても、設備の稼働データやエネルギー消費量、品質データを収集・分析することで、生産性の向上、予知保全によるダウンタイムの削減、そしてエネルギー効率の改善といった効果が期待できます。重要なのは、単にデータを集めるだけでなく、それを現場の知見と組み合わせて、具体的な改善活動にどう結びつけていくかという視点です。
事業継続の前提となる環境モニタリング
今回のプロジェクトで、もう一つ注目すべき点が「持続可能な操業を支える環境監視システム」です。大規模なエネルギー開発は、常に環境への影響という課題と隣り合わせです。そのため、周辺の生態系への影響を最小限に抑えるための継続的なモニタリングは、事業の許認可を得て、社会的な信頼を維持し、操業を継続していくための必須要件となっています。
この考え方は、今日の日本の製造業にとっても極めて重要です。サプライチェーン全体での脱炭素化(カーボンニュートラル)への要請、国内外の環境規制の強化、そしてESG投資の拡大といった潮流の中で、環境への配慮はもはやコストではなく、企業の競争力や事業継続性を左右する戦略的な要素となっています。自社の工場が排出する物質やエネルギー使用量を正確に把握し、管理・削減していく取り組みは、今後ますますその重要性を増していくと考えられます。
生産性とサステナビリティは両輪で
デジタル技術による生産性の追求と、環境監視によるサステナビリティへの配慮。これらは一見すると別々のテーマに見えるかもしれません。しかし、両者は密接に関連しています。例えば、生産設備のエネルギー消費をデジタル技術で監視し、無駄をなくして最適化することは、製造コストの削減とCO2排出量の削減に同時に貢献します。
巨大な資本が投下されるエネルギー開発の現場では、生産効率の最大化と環境リスクの最小化という2つの目標を、テクノロジーを駆使して両立させようとする動きが加速しています。この「両輪」で事業を推進する姿勢は、業種や規模を問わず、これからの日本の製造業が目指すべき一つの姿を示唆していると言えるでしょう。
日本の製造業への示唆
今回の事例から、日本の製造業の実務に携わる我々が汲み取るべき要点は、以下の3点に集約できると考えられます。
1. データ活用の具体化: スマートファクトリーやDXといった言葉が先行しがちですが、重要なのは自社の課題解決です。「品質安定」「エネルギー効率改善」「設備稼働率向上」など、具体的なテーマを定め、それを解決するために必要なデータを、まずはスモールスタートで収集・活用してみることが第一歩となります。
2. 環境対応の戦略的推進: 環境への取り組みを、規制対応などの受動的な活動と捉えるのではなく、企業価値を高めるための戦略的な投資と位置づけることが求められます。自社の事業活動が環境に与える影響を定量的に把握し、その削減に向けた計画を立て、実行していく体制の構築が不可欠です。
3. 技術と環境を結びつける視点: 生産技術や品質管理の改善を考える際に、常に「それは環境負荷の低減にも繋がるか」という視点を加えることが重要です。生産性の向上とサステナビリティの実現を同時に達成するような、複合的な視野を持った技術者やリーダーの育成が、今後の企業の成長を支える鍵となるでしょう。


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