サーキュラーエコノミー実現の鍵は設計初期にあり ― 循環性を評価する意思決定フレームワーク

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サーキュラーエコノミー(循環経済)への移行は、製造業にとって重要な経営課題となっています。本稿では、製品開発の初期段階で「循環性」を体系的に評価し、持続可能な製品設計へと導くための意思決定フレームワークを紹介する海外の研究論文をもとに、その考え方と日本の製造業における実務的な示唆を解説します。

はじめに:なぜ今、サーキュラーエコノミーが重要なのか

昨今、SDGsやESG経営への関心の高まりとともに、「サーキュラーエコノミー(CE)」という言葉を耳にする機会が増えました。これは、従来の「作って、使って、捨てる」という一方通行の経済(リニアエコノミー)から脱却し、製品や資源を廃棄することなく循環させ続けることで、環境負荷の低減と経済成長の両立を目指す考え方です。日本の製造業が長年取り組んできた3R(リデュース、リユース、リサイクル)活動をさらに発展させ、事業戦略そのものに組み込む動きと捉えることができます。

しかし、理念は理解できても、具体的に自社の製品開発や生産活動にどう落とし込むべきか、悩んでいる企業は少なくありません。特に、リソースの限られる中小企業にとっては、どこから手をつけるべきか判断が難しいのが実情でしょう。

製品開発の「初期段階」で循環性を評価する重要性

今回紹介する研究論文が特に強調しているのは、製品開発の「初期段階」、つまり構想・設計のフェーズで循環性を評価することの重要性です。製造業の現場に携わる方であれば、後工程での設計変更がいかに大きな手戻りやコスト増につながるか、身をもってご存知のことでしょう。これは「フロントローディング」の考え方にも通じます。

製品の寿命、分解のしやすさ、修理の可能性、使用される材料といった循環性を左右する要素の多くは、設計段階で決まってしまいます。生産や廃棄の段階でいくら工夫をしても、設計に起因する制約を乗り越えるのは困難です。だからこそ、設計の早い段階で、ライフサイクル全体を見据えた判断を下すことが極めて重要になるのです。

循環性を評価するための意思決定フレームワーク

本論文では、こうした初期段階での意思決定を支援するための体系的な「フレームワーク」を提案しています。これは、複数の設計案を、客観的な基準に基づいて比較・評価するための「仕組み」や「ものさし」と考えると分かりやすいでしょう。

このフレームワークの特徴は、単一の指標ではなく、複数の基準を総合的に評価する点にあります。具体的には、以下の4つの側面から評価を行います。

  • 経済的側面:製造コスト、材料費、再製造による収益など
  • 環境的側面:CO2排出量、エネルギー消費量、廃棄物発生量など
  • 社会的側面:雇用の創出、製品の安全性、ユーザーの受容性など
  • 技術的側面:再製造の技術的難易度、部品の耐久性、材料の入手性など

日本の製造業で重視されるQCD(品質、コスト、納期)に、環境(Environment)や社会(Social)といった新たな評価軸を加え、トレードオフの関係にある要素をバランスよく判断するための道具立てと言えます。勘や経験だけに頼るのではなく、データに基づいた合理的な意思決定を促すことを目的としています。

具体的な評価の進め方

論文では自動車のブレーキディスクを例に、このフレームワークを用いた評価プロセスが示されています。例えば、以下のような複数の設計案を比較検討する場面を想定します。

  • 案A:従来通りの新品材料から製造する設計
  • 案B:リサイクル材の利用率を高めた設計
  • 案C:摩耗した製品を回収し、再製造(リマニュファクチャリング)することを前提とした設計

これらの案を、先ほど挙げた「経済」「環境」「社会」「技術」の各基準に照らしてスコアリングします。その際、企業戦略に応じて「環境への貢献を最も重視する」「まずはコストを優先する」といったように、各基準に重み付けを行います。最終的に、それぞれの案の総合点を算出し、最も望ましい選択肢を客観的に特定することができます。これにより、特定の側面に偏らない、バランスの取れた意思決定が可能となります。

日本の製造業への示唆

この研究が示すフレームワークは、サーキュラーエコノミーへの取り組みを具体化しようとする日本の製造業にとって、多くの示唆を与えてくれます。最後に、実務的な観点から要点を整理します。

要点整理

  • サーキュラーエコノミーへの移行は、コスト増となる環境対応策ではなく、競争力強化につながる経営戦略です。
  • 製品の循環性を高めるには、生産段階や廃棄段階での努力だけでなく、開発・設計の初期段階でその価値を「作り込む」ことが最も効果的です。
  • 複数の設計案を評価する際には、コストや品質といった従来の指標に加え、環境負荷や再利用性といった多角的な視点から、体系的かつ客観的に判断する仕組み(フレームワーク)の導入が有効です。

実務への示唆

  • 設計・開発部門:従来の設計要件に、「分解・分別設計(DfD)」や「再製造を考慮した設計(DfReman)」といった循環性の観点を明確に組み込むことが求められます。
  • 生産技術・工場運営:製品の回収・分解・再製造プロセスを想定した生産ラインの構築や、部品のトレーサビリティを確保するシステムの導入が今後の課題となり得ます。
  • 経営層・マネジメント層:目先のコストだけでなく、製品ライフサイクル全体での収益性や企業価値向上という長期的視点から、サーキュラーエコノミーへの投資判断を行う必要があります。本稿で紹介したような評価フレームワークは、その際の有力な判断材料となるでしょう。

まずは自社の主力製品の中から一つを選び、小規模でもこうした評価を試行してみることが、サーキュラーエコノミー実現に向けた着実な一歩となるのではないでしょうか。

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